性悪転生魔境~生まれ変わりたいと思ったら~
烏丸焼
プロローグ 前世、輪廻、来世
最期は、ずっと同じ景色だった。
くすんだ白い壁と、鉄格子越しの狭い空。つまらない。
詞を書いても曲を書いても、壁の中にいる俺にはそれを奏でる術も、聴かせる相手もない。
何度か、俺の言葉を金に換えようとハイエナ根性をにじませた連中がやってきたが、どうでもいい。
俺にとって価値のある時間とは、あのざらついた街で家族と過ごした日々だけだ。俺の人生は、あのつまらない箱に押し込まれた時点で終わったのだ。
溶けてゆく。解けてゆく。
俺は重力の枷から解き放たれ、上も下もない闇の中を落ちてゆく。
特に思うところはない。箱の中も、闇の中も、同じことだ。始まりが無なら、終わりが無であることも道理だ。
ただ、まあ。始まりと終わりの間の極彩色の日々が、少し短すぎた気がしないでもない。
つまらない見落としのせいで、蜜月は脆くも崩れ去った。ほんのわずかな詰めの甘さで、俺の人生は台無しになった。
もし、次があるのなら、もっとうまくやるだろう。ひとつの過ちもなく、俺と俺の家族の、何人にも侵されない永遠の楽園を築く。
次――次、か。
あるのか、ないのか。落ち続けてゆくこの闇の果てに、なにがあるのか。この闇の果てにたどり着いた時、俺はどうなっているのか。
死とは変化だ。少なくとも俺という人間が再び大地を踏むことはない。
しかし、俺の記憶が刻まれた魂は新しい肉を得て生まれ変わるはずだ。
それはこの俺ではないが、まぎれもなく俺なのだ。
ならば、俺のこの望みもいずれ叶うだろう――。
落ちてゆく。落ちてゆく。落ちてゆく。
俺という存在が、闇に希釈されていく。もうなにもわからない。
その、果てで。光を、見た気がした。あたたかい、楽園のような光。
俺は、存在しない口元がつり上がるのを感じた。
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