骨上げを待っていました
そうざ
We was Waiting for Bone Raising
「出来る事なら、お棺に酒瓶を入れてやりたかったよなぁ」
そう言って、義兄が冷酒をくいっと呷った。故人を偲んで、と言えば聞こえは良いが、火葬場の待合室で何杯飲むつもりなのだろう。
「まだ三十分以上あるわ。こんなに時間が掛かるものなのね」
義姉は、
「ママァ、外で遊んで良い~?」
息子が退屈を訴える。火葬場の敷地から出ないように言い付けると、姪っ子を伴って待合室を出て行った。
「本当に酒が好きだったなぁ、親父は……」
いつの間にか、夫もお酒を口にしていた。普段はほとんど飲まない人なのに、父親を偲ぶ気持ちがそうさせるのか、単に他にする事がないからなのか。
生前の義父の印象を一言で言えば『
「何か良い匂いがしないか?」
突然、義兄が呟いた。お酒の
「そうだな……美味しそうな匂いだ」
義姉が赤らんだ顔で言った。
「何処から漂って来るんだ?」
夫がふらふらと部屋を出て行こうとした時、職員が火葬が終った旨を伝えに来た。すると、
慌てて後を追うと、三人は既に骨上げ台の周囲を取り囲んでいた。何だか目の色が違う。これから骨上げが始まるという厳かな雰囲気でも、悲しみに暮れる様子でもない。
そこで私はぎょっとした。
骨格標本という言葉が先ず浮かんだ。骨だけになった義父は、台の上で行儀良く横たわっていた。火葬されるともう少し崩れた状態になると思っていたが、火力の調整でも間違えたのだろうか――そんな疑問が頭を
皆が一斉にお骨を手掴みにしている。専用の箸が用意してあるのに、誰も見向きもしない。全くお構いなしだ。
やがて、皆が一心不乱にお骨にしゃぶり付き始めた。私は、反射的に夫の腕を掴んだ。
「ちょっと何してんのよぉっ!」
「お骨を頂いてんだよ」
見れば判る答えしか返って来ない。目の焦点が合っていない。
「おい、肋骨は沢山あるんだから一本くらいよこせ」
「お父さん、ほとんど入れ歯だったんだわね」
「大腿骨はしゃぶり甲斐がありますよ」
しゃぶりにしゃぶった三人は、到頭お骨を齧り始めた。ガギッ、ボリッ、ジャリッと硬質な音が不協和音を響かせる。
「絶妙な焼き加減だっ。何だかコクがあるなっ」
「お父さんは骨粗鬆症気味だったから、骨の中の中まで生前のお酒がよく染みてるわっ」
「大酒飲み様々だなっ」
皆が上気を逸する程に酩酊していた訳ではない。何故なら、一滴も飲んでいない私も香ばしい誘惑に勝てず、気が付いたら同じ事をしていたからだ。
最後は、喉仏の取り合いになった。仲良く四つに砕いた。それでもまだ満足出来ず、台車の上に残った粉や灰を競って舐め続けた。遠くで息子と姪っ子が呆然としている。
黙って一部始終を観ていた職員が、苦笑しながら独り言のように言った。
「時々あるんだよな、こういう事が……」
没後の父の印象は『美味い』だった。
骨上げを待っていました そうざ @so-za
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