みんな桃太郎

脳幹 まこと

この子もあの子ももものうち


 モンスターペアレントの言い分で有名なのが「わたしの息子がサル役になっているそうだけど、桃太郎の役にしなさい」というものだ。

 こういったクレームが生徒全体から出された結果、そのクラスの演劇「桃太郎」のキャストは全員が桃太郎になったという話もある……


 全員が桃太郎なんてシュールすぎて、台本任された人も大変だろうなとは思う。

 どれだけどんぶらこどんぶらこと川上から桃が流れてきて、おばあさんはどれだけ切ったのだろう。傷みやすい桃、それも大きいやつを、何個も食べたいとは思わない。

 流石にいくつかの桃は見送ったのだろうか。それを川下のおばあさんが引き取ったのかも知れない。


 桃太郎同士で「友チョコ」ならぬ「友きびだんご」でもしたのだろうか。犬、サル、キジのお供(主従関係)がないので、桃太郎間でマウントの取り合いが進むのだろうか。

 例えば、鬼ヶ島の財宝を山分けする時なんか……「俺は一太刀浴びせたからこれだけ」「それだったら、おれは矢を二本当てたぞ」なんて。桃太郎同士で争いが行われるかも知れない。

 いや実際のところ、鬼役もいないのだから、最初から敵は他の桃太郎だけだったのだが。

 そして最後に残った傷だらけ、血まみれの桃太郎が、これで「財宝は俺のモノだ」と勝利宣言。鬼ヶ島の領主、鬼太郎おにたろうとして君臨する。



 お母さん方はワンワンキーキーケンケンと大騒ぎである。

 今度は「あの子をサル役にして、わたしの息子(桃太郎)の家来にさせなさい」と息巻く。

 こういったクレームが生徒全体から出された結果、そのクラスの演劇「桃太郎」のキャストは全員が桃太郎・犬・サル・キジの一人四役をつとめることになった…… 


 全員が一人四役なんてシュールすぎて、台本任された人も大変だろうなとは思う。

 各生徒に公平になるように、桃太郎としての出番は均等にしている。犬、サル、キジの時間も均等に配分している。

 台本としては、四人一組でグループを組ませる。それをクラスの人数分・七~八組程度作る。

 全員が桃太郎・犬・サル・キジを兼ねている。桃太郎を四部構成とすることで、各部ごとに役割が入れ替わるようにしている。一部で桃太郎だった子は、二部では犬、三部ではサル、四部ではキジである。


 そうすると、一番のクライマックスだろう四部(最終盤)が一番人気があるじゃないかと思うかもしれないが、心配は要らない。

 鬼役はいないので、成敗は起こらない。


 起こるのは畜生どもの共食いだけだ。

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