第3話

 薙はいつものようにバイトの時間になると起きてコンビニのバイトに向かう。


 夜の十時位は人は入って来るのだが十二時を回る頃には人は殆ど来ない時間になり掃除やらと雑用的な仕事を始める薙。


 そしていつもの夜中の三時頃になるとあのホスト風の客が来るのだ。


 またいつものように夜食を買いに来たのか暫く店内を歩き品物を選ぶと、その客がレジへと来て再び薙はその客に話しかけられるのだ。


「いつも何時に仕事が終わるの?」

「……へ? あ、いつも六時には終わりますけど……」


 確かに昨日もこのホスト風の客は薙に声を掛けて来たのだが、まさか今日も声を掛けれるとは思ってはいなかったのであろう。 だからワンテンポ遅れて答えたのだから。


 だが何故そのホスト風の客は薙のバイトが終わる時間を聞いてきたのであろうか。


 それはまだ分からないのだがまたその客は「ふーん」とだけ言って店を出て行ってしまう。


 それからその客は毎朝六時位に来て朝食を買うと薙の前を歩いて自分の家に帰って行っていた。


 その客は薙が働いているコンビニからそう遠くはない。 寧ろ方角は薙の家の方で薙はそのホスト風の男性の後に付いて家に帰宅してしまっていたのだから。


 やはりホストでもやっているのであろうか。 その男性は薙の家の一歩手前にあるオートロック付きの高層マンションへと入って行く姿を見かけてから家に帰宅する毎日を送っていた。


「やっぱり、いい家に住んでるんだなぁ」


 と思いながら薙は溜め息をつき、その男性が入って行ったマンションを見上げる。


 それから一週間位過ぎた辺りだろうか。 薙は仕事が終わるといつものようにその男性の後を付いて歩いていた。 そう薙からしてみたら、その男性と家に帰る方角が一緒だったっていうだけで、特に付いて歩いていたという意識はなかったのだが、その男性が突然足を止め薙がいる方に足を向け、


「な、いつも俺の後付いて来てるみたいだけど……俺に気があるのか?」


 その質問に目を丸くしたのは薙だ。


「はぁ!? そんな訳ないでしょ!? 違う! 違う! 誤解だよ! 僕が住んでるアパートもこっちの方なんだからね!」

「何だ……そういうことか……」


 そう何故だか残念そうに答えるその男性。


「ま、いーや……」とだけ答えるとまたいつものように自分が住んでいるマンションへと入って行ってしまう。

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