わくわく、なまめかしく、そして

 三部構成の大作だが、三部は、おそらくそれぞれが違う印象を与えようとして描かれている。

 第一部はわくわくするものである。
 不思議な世界に迷い込む。
 魔物がいたりするわけではないが、現実世界とは少し異なる異世界。そこでの生活に慣れていく中で主人公は少しずつ変わっていく。
 毛色の変わったファンタジーとして私は少しずつこのわくわくする物語の中へと入っていった。

 第二部はなまめかしい。
 直接的な描写ではない。手紙のやりとりがとくになまめかしいのだ。
 第一部で幼さを残した主人公たちはお互いを恋い焦がれる中で成長していく。
 私はなまめかしくやるせない話をここでは楽しんだ。好き嫌いが分かれそうなパートであるが、個人的にはここが一番気に入っている。

 第三部は冒険である。
 しずしずとした筆致で世界の危機とそれに対処する主人公たちが描かれる。
 作品内の経過時間は第二部よりも短いし、抑えた筆致で描かれるがそれが冒険譚と狂気の科学者を際立たせているようだ。
 
 変わらないものもある。
 三部を通して常に歌が重要視される。ただ、その現れ方も各部ごとに異なる印象を与えようとしているかのようだ。
 一部では歌を通して距離をつめていき、二部では歌をとおして開いていく距離が描かれ、三部では歌は世界と主人公たちの救いと再生へとつながる。
 うまく言い表せないところは多数あるし、私自身の読み落としもかなりあるはずだ。それでも全三部、作中でも七年近い長い時をえがいた全四百話以上の大作でありながら綺麗にまとまっている一品であり、逸品であるとは言えよう。