もう遅いざまぁ極めたパーティ追放、外れスキルガチャ開拓スローライフ/不遇職極めた俺だけスキル獲得チートな件 : 役立たず付与術士ミロクと婚約破棄令嬢クロエの裏ダンジョン冒険記
第三一話「お前を地下牢に捉えて一週間観察する。それで凶行が止まればお前が犯人だ」
第三一話「お前を地下牢に捉えて一週間観察する。それで凶行が止まればお前が犯人だ」
二〇九日目~二二一日目。
迷宮から得られた素材を錬金術科のアグラアト先生に提供し、さらにお料理ブラウニーの作ってくれたお菓子も一緒にプレゼントする。
先生との交渉の結果、個人的に錬金術をレクチャーしてくれると約束を取り付けることに成功したので、この期間、俺は遠慮なく先生の居室に押しかけては研究や質問を繰り返した。
(クロエも一緒に錬金術を教えてもらえるように交渉した甲斐があったな)
先生への提供素材と焼き菓子を片手に、俺はひとりごちた。
実をいうと、俺一人だけが気に入られていたようで、最初は俺一人だけの個人指導を提案されていたのだ。しかし俺がそこをなんとかと交渉したことで、クロエも一緒に教えてもらえるようになったのである。
その際「新月の日、必ず夜に先生の研究室を訪問すること」と食い下がられてよくわからない条件を飲まされたが、まあ、一緒にワインを飲む友達が欲しいとかそういうやつだろう。うん。
アグラアト先生の個別指導はとてもためになるものが多かった。
ユナニ医学の根本となる四体液説(血液、粘液、黄胆汁、黒胆汁の調和によって身体と精神の健康が保たれるという考え。ガレノス理論に基づく)や、それらに対応する生薬(カモミール(熱性第1度)、スペインカンゾウ(乾性第1度)、スミミザクラ(湿性第1度)、ニオイスミレ(寒性第1度)、サフラン(熱性第2度)、ショウガ(乾性第2度)、ヨザキスイレン(湿性第2度)、レタス(寒性第2度)など)の調合。
アーユルヴェーダ医学による古典医学書『チャラカ・サンヒター』(特に薬毒学にあたるアガダ・タントラ)およびジョーティシャ(占星術)やマントラ(呪文)、宝石を使った治療の研究。
漢方医学にある『傷寒雑病論』の基本理念と、漢方で取り扱われている生薬を一覧化した『本草綱目』の概略説明、および陰陽五行説と気功術・鍼灸・錬丹術の学習。
迷宮で取れる生薬は、特に茸類の種類が豊富であり、アグラアト先生を大いに喜ばせた。
これらの生薬を授業や錬金術研究で使えるように大量に調合・製薬する練習は、俺とクロエの錬金術の学習に大いに役に立った。
やっていることはただのアグラアト先生の雑用なのだが、見方を変えたら、普段触れない高価な錬金術用の器材を触ることができる上に、目の前に正しい手順を教えてくれる先生がいるわけであり、迷宮で一人で工房にこもって試行錯誤するよりも学習速度は段違いに早いというものだ。
蒸留の手順や機器の使い方の勉強、塩析法での結晶生成――こっそり自分用に多めに材料を作って持ち帰ってもOK。
ノルマ分の材料さえ作れば、それを超えた分は自分の分にしても大丈夫なので、いわば高価な器材をただで貸してもらっている形になる。
自作の手袋を染色液で煮込んで魔力がよりしみこむように工夫を凝らしたり、迷宮で使う傷薬や軟膏をアグラアト先生の工房で作ったり、こちらも割と自由に行動している。
持ちつ持たれつというやつだ。
ミロク
Lv:3.96→20.38→5.38
Sp:3.26→35.19→0.19
≪-≫称号
├×(藍色の英雄)
├森の王の狩人
└大罪の討伐者【嫉妬】
≪-≫肉体
├免疫力+++
├治癒力++++
├筋力_max
├感覚強化(視力++++ / 聴力++++ / 嗅覚++ / 味覚+ / 触覚+)
├熱源感知++
├造血++
├骨強度++++++
├×(肺活量)
├皮膚強化++++++
└精力増強++ new
≪-≫武術
├短剣術++
├棍棒術++++++
├盾術++
├格闘術+++++
├投擲++++++
├威圧+++
├隠密+++++
└×(呼吸法)
≪-≫生産
├道具作成++
├罠作成++
├鑑定+++
├演奏
├清掃
├裁縫+++++
├測量++
├料理
├研磨
├冶金++++ new
├調薬++++ new
└運搬
≪-≫特殊
├暗記++
├暗算++
├直感+++++
├並列思考+++++++
├魔術言語+++++
├詠唱+++++
├錬金術++++ new
├治癒魔術++++++++
├付与魔術_max
└血液魔術++
クロエ
Lv:75.46(499)→75.56(478)
Sp:2.51→3.91→2.91
状態変化:腐敗 免疫欠乏 皮膚疾患 呼吸障害 視力× 味覚× 嗅覚×
≪-≫称号
└大罪の討伐者【嫉妬】
≪-≫肉体
├免疫力+++
├治癒力+++
├筋力+++++++
├感覚強化(視力+++++ / 嗅覚+++ / 味覚+++)
├肺活量+++
├不死性+++++
└異常耐性(毒+ / 呪術+++)
≪-≫武術
├棍棒術+++++
├投擲++++
├隠密++++++++
└呼吸法++
≪-≫生産
├罠作成+
├裁縫+
└測量
≪-≫特殊
├錬金術 new
├宝石魔術+++
└吸魂+++++++
さて、注目はスキルの成長である。ずっとアグラアト先生の工房で手伝い作業を続けていた甲斐があって、とうとう念願の「調合」「錬金術」スキルを獲得したのだ。
錬金術とは金属の精錬のみならず、化学的な知見で人間の肉体や魂を解き明かそうとする試みの学問である。ここまで学んできた通り、医学や薬学にも通じるものが多く、日常への応用が幅広い。
当然スキルを鍛えたら有用なことは間違いないわけで、錬金術関連のスキルにはさっそくスキルを配分させてもらった。
俺と一緒に錬金術研究を手伝っていたクロエにも、同じく錬金術のスキルが芽生えた。
これで迷宮で得られた素材を、迷宮内の工房で極秘裏に加工する下準備ができた。
ここからは希望的観測が多分に含まれているが、大っぴらにはできないようなポーションの作成――それこそエリクサーのような霊薬の調合だってできるようになるかもしれない。
……精力増強スキル? これは念のためってやつだ。備えあれば患いなし。アグラアト先生との密会に何が起きるのか俺にはさっぱりわからないが、直感がこうしろと囁いているのだ。
クロエからはやはり白い目で見られたが、何にも言われなかったのでまあいいだろう。
いつものように彼女に、針を使ってあばたになって凹んでいる皮膚をつついて治療魔術を繰り返しかける治療を行い、アロエと海藻と混ぜた炎症防止用の軟膏を塗ってから、俺はちょっとだけ浮かれた足取りでクネシヤ魔術院へと出かけたのだった。
二二二日目。
多くは語るまい。アグラアト先生はとても教養深く、魔術のみならず俺の知的好奇心を満たしてくれる引き出しの広さを持っており、ともに質の高い時間を過ごすことができる人だ。
これなら新月の日だけとは言わず、ずっと通い詰めてもいいほどだ――と俺は考えている。
だが、俺の行動はどうやら風紀委員の目についたらしい。
「ちょっと、そこのあなた」
廊下を歩いていると、いきなり呼び止められる。すわ何事かと思って足をとめたら、あの時の少女がいるではないか。
ずぶ濡れの獣人の娘をくすくす笑っていた、意地悪そうな少女の一人。
名をチェルシー・ココリス女史。今年度のクネシヤ魔術院の代表、マギア・マエストロの有力候補と目される少女。
俺はどうやら彼女に、一方的に敵愾心を抱かれているようであった。
「そこのあなたよ、ミロク。授業もろくに出ない。提出物もしらばっくれる。基礎教養科目や魔工学部の必須科目のほとんどをないがしろにしている。あげく自分の興味を惹く授業は純魔力学部だろうが言語学部だろうが儀式学部だろうが勝手に潜り込んで出席して、講師を質問攻めにして、ひどい場合には賄賂を贈ったりしているそうじゃない」
「えっと……? 人のことを呼び止めといてそれはないんじゃないか?」
廊下でいきなりとんでもないことを言われてしまったので、俺はちょっと驚いてしまった。
正直なところ全部正しい指摘だった。
事実、俺は結構好き放題している。
だが、ちょっと言い方というか表現に問題がある。
「言っておくけど俺は、賄賂は贈ってないぞ。授業でわからないことを教えてくれた感謝の気持ちを物にして贈っているだけだ。別に見返りに成績を上げてほしいとか、不正をお願いしているわけじゃない」
「あ、そう。別に言い訳は聞きたくないの。風紀委員としては、報告があった問題生徒に警告をする義務があるの」
「問題生徒って……俺は別に問題なんて起こしてないぞ」
「警告で済んでよかったわね。あなた、寮の部屋を勝手に抜け出して街で遊んでいるみたいね。クネシヤ魔術院の生徒は、夜のお店で遊ぶのを校則で禁じられているはずよ」
「いや、別に外に出ているわけじゃないんだが」
耳に痛い話だ。隠し迷宮にこもっています、なんて説明しても信用してもらえないだろう。そもそも隠し迷宮のことはあまり大っぴらにしたくない。
果たして面倒なことになってきたぞ、と俺は顔を渋くした。
上手く釈明できるといいが、どうにも面倒な予感が漂っている。
「まずちょっとずれてるんだよな。俺はそもそも卒業するために勉強しているんじゃなくて、魔術の学習に役立つからここに通っているだけで、そのために対価として多額のお金を学費として寄付しているんだ。その点はほかの人よりも学院に貢献しているはずだ。どう授業を受けてどう学ぶかは自由なはずだ」
「お金をたくさん納めているから授業は好き勝手するけど見逃せってこと? ……無様な言い訳ね」
「校則だって、極力守りはするけど、他人に迷惑をかけていない範疇であれば個人の自由は尊重されてしかるべきだ。夜中に魔術の研究のために出歩いたって問題はないだろう?」
「夜中の外出禁止は、クネシヤ学院の秩序のためよ。校章を身に着けた生徒が問題行動をして学校全体の品位を貶めたら、学生全員に迷惑をかけるのよ。それに、外出禁止を守らない学生は疑わしいの」
「何がさ」
「夜間にいろんなものが盗まれたり、いろんな人が襲われたりしているのを知らないの?」
もしかしてあなたが犯人? と言わんばかりに厳しい口調で、彼女は詰め寄ってきた。
やっぱり面倒なことになった、と俺は思った。盗みも通り魔もどちらもやってない。
「疑っているのか?」
「身の潔白の証明はできる?」
「明日から俺に付きっきりで随行してくれるかい? 朝から夜まで、ベッドの中までね。それでよければ」
「もっと早い方法がある」
俺のつまらないジョークに心底嫌悪を抱いたような顔で彼女は吐き捨てた。
鋭い眼光の先には俺がまっすぐ見据えられている。
「お前を地下牢に捕らえて一週間観察する。それで凶行が止まればお前が犯人だ」
瞬間、魔法陣が大きく展開される。
もう遅いざまぁ極めたパーティ追放、外れスキルガチャ開拓スローライフ/不遇職極めた俺だけスキル獲得チートな件 : 役立たず付与術士ミロクと婚約破棄令嬢クロエの裏ダンジョン冒険記 RichardRoe@書籍化&企画進行中 @Richard_Roe
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