第23話 決着

瞬間移動した魔力喰いの森はかつて森だったとは思えないほど姿を変えていた。

 草木の1本も生えておらずどこまでも荒野が広がっている。


「ここならお互い遠慮なくやれるだろ?」

「お前の全力は見させてもらった。今度は勇者の俺の番だな、クックック」


 やべーやべー。コイツ目がいっちゃってるぞ。

 黒い影の正体はいまだつかめてないが、何かに取り込まれてるのは間違いない。


「闇堕ちした勇者なんて怖くない。さっさとけりをつけるぞ」

「これ以上俺をばかにするなああああああああ!!」


 アランがまるで槍を扱うように殺気をまとった剣を突き出してきた。

 さっきまでなら軽く避けて終わりなんだが――


 俺の新しい超能力【シックスセンス】が発動した。


 『あの攻撃はヤバい』


 考えるよりも早くアランの背後に【瞬間移動】した。


 ズゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!


「は?地面どころか遠くの山まで消し去りやがった」


 突きを放った剣の先からドス黒い何かが吹き出しすべてを削り取っていた。

 そのまま受け止めていたらどうなっていたか……

 

「シックスセンスのおかげで命拾いした」


 人間には五感が備わっている。「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚」がコレにあたる。

 そして俺の新しい能力【シックスセンス】はいわゆる直感と言われる第六感だ。


 人間は普段、視覚に8割頼っていると言われている。目に見えるものを認識するのだから当然のことだ。

 しかし目に見えるものだけが全てではない。俺の前に立つアランがまさにそうだ。

 

 今のアイツは『アランであってアランじゃない』と本能的に警告してきた。


「……これを避けるとは。お前人間ではないのか?」

「化け物を飼ってるお前と一緒にするな」


 人間の力ではない?だとすればーー


 途中で別れたマオを思い出した。どこまでも見通すことのできる千里眼でもいまは居場所を捉えることができなくなっている。


「化け物なんかじゃない!俺は……俺は……勇しぃあだぁぁぁぁ……」


 アランがドロッとした黒いなにかに変化していく。

 スライムのように見えなくもないが、黒いスライムなどこの世には存在しない。

 絶え間なく動いているところを見ると生きてはいるようだ。


「……アラン?」


 物体に話しかけてみたものの返事はない。

 心も読めずステータスは「変化中」の文字が浮かんでいた。

 問答無用に攻撃してもいいのだが、いちおうあれはアランだ。

 恨みがないと言えば嘘になるけどむやみに人を殺すなんて俺にはできない。


「人間はやはり甘い。相手に情をかける。だから……死ね!」

「念動力!!」


 槍に变化した黒い物体が俺の体を貫く寸前で静止した。

 この力で止められないものはないらしい。


「な、なんだこの力は!?こっちには【魔法無効】のスキルがあるんだぞ!」


 俺のは魔法じゃないからな。マオ以外に教えるつもりはないけど。


「これならどうだ?」

「あちちちち!なんだこの熱量は」


 黒い物体が急激に赤く染まっていく。マグマを彷彿させるようにグツグツ音も立てている。


「どう防いでいるかはわからんが、これでお前は終わりだ」


 ヤバイ!コイツ自爆する気だ!


「シールド!シールド!シールド!シールド!瞬間移動!」


 何重にも黒い物体にシールドを張り、俺はあるところに瞬間移動しすぐ戻ってきた。

 逃げたわけじゃない。を取りに行ってただけ。時間にしておよそ0.1秒ほど。


「熱いなら冷やせばいい」


 ズッズッズッズーン!!!!!!!!


 広大な魔力喰いの森跡地に突如として氷河の山々がそびえ立った。


 ドゴーーーーーーン!!!!!


 山が噴火したかのような爆発音とともに大地が激しく揺れている。


 そしてやがて――静寂が訪れた。


「かなり地形を変えてしまったな。生態系が心配だ」


 氷河の半分が溶けてまるで最初からそこにあったかのように川が流れている。

 温暖な気候で知られるエステリオ王国だがこの辺りだけ気温がかなり低下していた。


「誰も入れなかった森よりましか」


 俺は山の頂上へと念動力で飛んでいった。


「しぶとさだけは勇者だな」

「なぜ僕を助けた?」

「勇者殺しにはなりたくないからな」


 奴が自爆する瞬間に小さな光が吐き出された。

 腐っても勇者であるアランの属性は光。俺は天高くその光を念動力で飛ばしてやった。

 アルベホヌ帝国の新雪に埋まって助かるとは運のいいやつだ。


「……いろいろすまなかった」


 そうひと言だけ呟いてアランは気を失った。


 * *



「メモリー様!」


 俺がアランを抱えて瞬間移動で帰ってくると笑顔でシャルルが迎えてくれた。

 ここを離れる前に信用できる人だけシールドは解除しておいた。メルノア公国の連中だけって意味だ。


 ドサッ!


「アランは罪を償う覚悟ができたようだ。アンタ達はどうする?」


 2人に問いかける。もちろんエステリオ王とジャフィールに。

 ここで思わぬ事態に発展していく。


「エステリオ王もジャフィール宮廷魔道士も俺たちを殺そうとした」

「これ以上はついていけない」

「新しい王をたてるべきよ」

「私達を救ったメモリー皇子がいるじゃない!」


 みんな勝手なものだ。自分の立場が怪しくなれば掌を返すような態度を取ってくる。

 ここにもう一人同じような態度をとるやつがいた。


「メモリーごめんなさい。あなたが王族の血をひいてて、あんなに強いとは思っていなかった。しかもアランがあんなに悪い奴だったなんて……。私達、まだやり直せるわ」


 平然と最近のことはなかったかのように俺の肩に触れてきたラクス。

 ダンジョンでの出来事だってラクスが知っているのはお見通しだ。


 もちろん俺の答えは決まっている。


「悪女なんてお断りだ」


 ラクスの顔が絶望へと変わり膝からガクンと崩れ落ちた。

 勇者も聖女もただの職業ジョブにすぎない。

 勇者だからといって勇敢で強いとは限らないし、聖女になったすべての人が純粋ではない。


 何年も努力し信頼を得て初めて本物の勇者と聖女になれるのだ。


「男爵家の娘が図々しい。ささ次期国王さまこちらへ。エステリオ王国の貴族の皆が待っております」

「あー……その話なんだけどパスするわ」

「は?」

「へ?」


 呆然とするエステリオ王国の貴族たち。

 最初から好きでお前らを助けたわけじゃないし。


「俺はS級冒険者に昇格したからこの国を出ることにした」

「「「「ええええーーーーーーー!!!!」」」」


 国と国の協定で、S級冒険者になった者には他国を自由に行き来できる特権が与えられる。

 どうずるしたのか知らんがアランもS級冒険者になってエステリオ王国に来た。

 俺も無能呼ばわりされてたエステリオ王国の再建とか興味ないし。


「旅立つ前に残ってる仕事を片付けるか」


 親が悪いことをしたら子供が責任をとるのは当たり前だからな。

 ん?逆じゃね?


 今度こそブルブル震えてるこのオヤジからすべてを聞き出すとするか。


 俺は千里眼とテレパシー、さらにはサイコメトリーを発動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔力のない無能と呼ばれて追放されましたが、実は超能力者でした!? スズヤギ @suzuyagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ