第22話 無能者無双

「さっきから逃げてばかりじゃないか。正直キミが王族だったとはビックリしたよ」

「昔の話だ。俺にはもう関係ない」


 こっちにはルドルフのオッチャンとシャルルがいる。

 ジャフィールもいることだし後ろに下がりながら2人の安全を確保していただけで逃げてたわけじゃない。

 

「皇子の座もダイヤの盾も追放された気分はどうだい?今度はこの世から僕が永遠に追放してあげようじゃないか!」


 壁際に追い詰めたと思ったらしい。ニヤけたそのツラをいま絶望に変えてやるから待ってろ。


「奥義!閃光烈火剣!」


 おお、勇者ってそんな技があるのか!

 しかもメモリーソードが喰った魔力も自動回復してやがる。


 【念動力 シールド】


 ガキーーーン!!


 激しい金属音が鳴り響く。


「無詠唱で結界魔法だと!?僕の必殺技を防ぐとは。魔法を使えないフリをしてたのか」


 おい、カッコつけるな。今のはただ切りかかってきただけじゃねーか。

 魔法は使ってねーよ。てか使えねえの知ってるだろ!


「これならどうだ!天翔雷鳴剣!」


 ガキーーーン!!


 名前だけは迫力あるな。自分で考えたのか?


「いい加減出し惜しみをしないで真面目にやれよ。こっちだって暇じゃないんだ」

「な、なんで僕の技が効かないんだ!?さっきから本気でやっている!」

「へ?」


 勇者って俺と同じレアスキル持ってたよな?

 これで全力とか……弱すぎだろ。

 半信半疑でアランのステータスを千里眼でくまなく調べてみた。


 勇者のレアスキルって『体力と魔力の自動回復』だけじゃねーか!


 普通の奴なら喉から手が出るほど欲しがるスキルだ。

 このスキルを使って努力すれば化け物レベルまで成長できただろうに。


「努力は人を裏切らないって言葉を知ってるか?もうお前は国に帰った方がいい。才能ねーよ」

「む、無能のキミにだけには言われたくない!まぐれで防いでるだけだろ!」

「避けてるだけならまぐれもあるだろうけどさーー」


 ズドーン!!


「メモリー様!」

「わたしの存在を忘れては困る。アランも時間稼ぎをご苦労だったな。おかげで極大魔法を詠唱できた。ちとやり過ぎて跡形もなく吹き飛んでしまったようだがな」

「い、いえ作戦通りですよ。ははは……」

「誰が吹き飛んだって?不意打ちでも俺を倒せなかったようだな。周りを無視してこんな魔法使いやがって」


 ジャフィールの奴、自分とクソジジイにだけ結界を張って攻撃しやがった。

 瞬時に俺はシールドを何層にも張った。みんな無事で済んだから良かったものの城まで壊す気だったのか?


「メモリー様!良くぞご無事で……」


 あーあ。ほら見ろ、シャルルが泣いちゃったじゃねーか。このツケはかなり高くつくからな。


「な、なぜ魔法の使えぬはずの貴様が無傷なのだ!?」

「それが子供に吐くような言葉か?俺もあんたを親だなんて思っちゃいないが。無傷なのは優秀だからに決まってるだろ。うるさいから少し黙ってろ」


 エステリオ王の口を【念動力】で閉じてやった。

 いままでならいくつもの超能力を、同時に使用し続けるのは不可能だ。

 だが、俺には【完全記憶能力】があるからな。


 いろいろ試してるうちにあることに気付いた。

 サイコメトリーで触ったものの記憶を読み取れるのなら、逆に『超能力をあらゆる物に記憶させる』のも可能ではなかろうか?と。

 その結果、永久的に張れるシールドなどが使えるようになったのだ。


「ん、んんん!」

「どう足掻いても無駄だ。俺が許可しない限りお前の口は永遠に開かない。ついでに逃げられないように体の自由も奪っておいた」


 超能力って万能すぎて怖いな。乱用しないように気をつけよう。

 例えば誰かに【透明化】を使って俺が忘れちゃったら永遠にそのままになっちゃうからな。怖い怖い。


「小僧、やるようになったな。おそらくそれは古代魔法だな?どうやって手に入れたのか教えてもらおう」


 洗脳魔法を唱えたようだが俺に通じるわけねーだろ。

 古代魔法?見当違いもいいとこだ。この知ったかぶりが。

 シールドも張ってあるからそもそも効かないぞ?こっちはもっと強力な【千里眼とテレパシー】も持ってるしな。


「私の最も得意な洗脳魔法が効かないだと!?あ、な、何をする?や、やめろ!」


 【念動力サイコキネシス


「意のままに操られる気分はどうだ?これでお前も少しは相手の気持ちが分かるんじゃないか?」


 両手両脚の自由を奪い体を宙に浮かせてやった。

 天井の高い大広間をゆっくりゆっくり上昇していくジャフィール。


「まずはメルノア公国の聖騎士団から解放しろ」

「わ、分かったから絶対に落とすなよ」


 え?それってフリ?


 落とすなよ落とすなよ……的な?


 そんな考えをひとりで巡らせている間に詠唱が終わっていた。


「馬鹿なやつだ。俺が気付かないとでも思っているのか?」

「気付いたところでこれだけの聖騎士達をたった1人で相手にはできまい。私の勝ちだ」


 それもフラグ的なやつだよね?

 この【千里眼】で最初から全部お見通しだよ。


 【テレパシー】


 聖騎士達の頭に直接語りかけた。


『今こそ忠誠を誓った主人に力を示す時だ』


「メルノア王のために!」

「「「メルノア王のために!!!」」」


 やっと正気を取り戻した聖騎士団は、隊長の指示を的確に実行する。

 あの鎧は魔法を跳ね返すらしいが、大浴場で風呂に入ってる時にでも洗脳されたのだろう。


「一応シールドを張らせてもらうよ」


 超能力は魔法じゃないから跳ね返されることなく鎧の上からシールドを記憶させてやった。


「さすがシャルルのムコ殿だ」


 オッチャン!変なこと吹き込むんじゃねー!


「我らが未来の王に!」なんて聖騎士達が叫んで片膝ついてるじゃねーか!?


 怖いから聖騎士団は放っておこう。

 あ、忘れてた。「ほい」っと。


「うわああああああ!!」

「素直に聖騎士団を解放しなかった罰だ。落ちろ」


 グシャ!?


 地上30メートル付近から約束を破った罰としてジャフィールを落としてやった。


「顔面から落ちたか。誓いを守れず強要された者達は心まで痛んだはずだ。お前は悔い改めろ」


 ジャフィールを念動力で拘束して後は国王コイツだけ。

 ゆっくり近づいて――


「許さない許さない許さない許さない許さない!!」

「なんだなんだ?……アラン?」


 すっかり勇者の存在を忘れていた。だってこいつ口だけなんだもん。


「勇者なんだ勇者なんだ勇者なんだ勇者なんだ……僕は勇者なんだ!!」


 ブワー!!


 ……なんだこの力は?


 アランの体内から禍々しい魔力を感じる。

 魔力自動回復のスキルがあろうとメモリーソードにほとんど魔力は奪われたはず。


 【千里眼】


 人間族のアランに魔族の魔力が宿ってるだと!?

 しかもさっきはこの眼を持ってしても見抜けなかった。


「勇者の力……てわけじゃなさそうだな」

「ガドルフ帝国出身の勇者が持つ力だ。敵にしたら恐ろしい国だが味方にすれば強大な力が手に入る。メモリー、お前は奇妙な魔法を使うようだがこれで終わりだ」


 もう一度アランを解析してみると一つの体に二つの人格が宿っていた。

 小さな光は黒い魔力で覆い尽くされている。


「ガドルフ帝国……」


 エステリオ王がポツリと呟いた。

 俺の知らないところで何かが起こっているらしい。


「クソジジイ、後でゆっくり聞かせてもらうからな」


 この魔力を相手にするのはここではまずい。

 どうやらみんなを守りながら闘えるほどの余裕はなさそうだ。


 一瞬の隙をつき【瞬間移動】でアランの後ろに回り込んだ。そのまま体に触れて【魔力喰いの森】のあった跡地へと二人で瞬間移動した。

 

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