第21話 エステリオ王

「長らくお待たせいたしました。これよりエステリオ王国筆頭宮廷魔道士ジャフィール=グレノス皇子様とメルノア公国シャルル=メルノア皇女様の【結婚の儀】を開催いたします」


 会場全体がどよめいている。どうやら事前の説明ではエステリオ王国とメルノア公国の友好を深める舞踏会と聞かされてたらしい。


「わたくしの婚約者はあなただけです。エステリオ王国は冗談がお好きなのですね」


 そんな大規模なドッキリ普通はやらないから!国際問題になっちゃうから!


「この国の悪い奴らはルドルフのオッチャンが死んだと思ってるようだな。シャルル落ち着け、オッチャンは俺のシールドで守ってる」

「……良かった。それでこれからどうしますか?」

「向こうが動くのを待つさ。会場に入った時からキミは監視されてる」

「え?」


 ずいぶんと俺も舐められたもんだ。

 こっちに気付かれてるとは微塵も思ってないとはな。無能の噂がこんな所で役に立った。


 入場してから乾杯用のシャンパンが配られたときに【サイコメトリー】を使わせてもらった。

 グラスからビンビン伝わってきたね。


 俺のグラスには『毒』が盛られ、シャルルのグラスには『睡眠薬』が入っていた。

 もちろんすぐさま人混みに紛れたふりして『瞬間移動』で捨ててきたけど。


「彼奴等はシャルルが誰かを知らされていても俺が誰だか知らないようだ」


 【千里眼】ですべてを見通し【テレパシー】で頭の中を探ってみた。

  俺はシャルルを脅している誘拐犯に仕立て上げられたらしい。


「エステリオ王国、国王と王妃様が御入場されます」と司会の宰相。

「続いてジャフィール筆頭宮廷魔道士の御入場です」


 また会場内がざわついた。この世界では生涯をともにする新郎新婦は一緒に登場する習わしなのだ。シャルルがいなければ当然の反応となる。


「驚かれるのも無理はございません。どうやらこの会場に場違いな男が紛れ込んでるようだ。おい、そこのクズ!私の花嫁を返せ!」


 スポットライトが俺に当てられた。


 おお、主役級の扱いじゃん。ただし花嫁泥棒扱いの犯罪者だけど。


「この人は違い――」

「やっぱりそうだったのか!」

「おかしいと思ってたのよ!」

「は?」


 シャルルが事情を説明しようと声を張り上げるも、どこかの勇者と聖女がここぞとばかりに割り込んできた。ややこしくなるから君ら引っ込んでてくれない?


「まさかキミがそこまで落ちるとはな」

「いくら自分がゴミくず同然の平民だからってお姫様を拐うとかありえない。親の顔が見てみたいものだわ」


 あんまり調子に乗るなよ?いまはお前らの茶番に付き合ってる暇はない。


「じゃあ好きなだけ見ればいい。あそこに座ってるのが俺の親父だ」


 俺はある人物を指さした。その先にいたのは――


 【エステリオ王国 国王 モルフィス=エステリオ】


「はぁ?あんた正気なの?国王を侮辱すれば死罪確定よ!?」

「疑うならそいつに聞いてみればいい」

「そいつって……。そ、そんなことただの貴族である僕らができるわけないだろ!」


 勝手に首を突っ込んできたくせにこれか?

 国の貴族がこれだけ集まってるならちょうどいい。


「ああ、そうだろう。アラン、お前はガゼルフ帝国のだからな」

 

 最初にマオが言いかけたのはこれだった。魔眼を持ってたから知ってたわけだが没落貴族も貴族には違いない。


「ぼ…つ…ら…く?」


 ショックのあまりラクスは気絶したか。まあ自業自得だ。


「なにかと思えば……お前はあの時王に捨てられた哀れな『魔力のない』元皇子か。今は俺が皇子だがな。はっはっは」

「ああ、お前が大袈裟に叫んで追放しようとした【メモリー=エステリオ】だ」


「なに!?」


 そんなに驚くなよ。俺には全部見えてるんだ、当然だろ?


「お前が叫ばなくても俺は元々捨てられる運命だった。なあ親父、黙ってないでなんとか言えよ?」


 最初から皇子だった俺の役目は12歳まで。

 ここまでのやりとりを無言で見ていた王がようやく口を開いた。


「どうやって突き止めたのかは知らんが……このタイミングで現れるとはな。感動の再会を望んでいるのか?ばかばかしい。メルノア公国はもう私のものだ。現れるのがもう少し早ければシャルル皇女もメルノア王も守れただろうに」

「ああん?寝言は寝て言えよ。ルドルフのオッチャンは俺が救った。もちろんシャルルも俺が守る」


 ジャフィールの洗脳魔法で操られてるわけじゃなかった。

 このクズ王は何年も前からジャフィールと一緒にメルノア公国を奪おうと計画していた。たとえ実の息子だろうと捨て駒に利用して。


 母さんのおかげで生き延びて冒険者になれたが、そこでも親父は邪魔をした。

 魔力のない人間は俺以外にいないからどこかで嗅ぎつけたのだ。

 母さんは反逆者の濡れ衣を着せられ逃亡者ってわけだ。まあ、追放されるときに庇ってくれなかったから自分への罰として受け入れたのだろう。


「魔法の使えぬお前に何ができる?ジャフィールは優秀だぞ。エステリオ王国で一番の魔法使いだからな。ワシの命令どおりメルノア王を殺してくれた。お前とはできが違うのでな」

「そうだな。俺とそいつとじゃ根本的にが違う。オッチャン聞いてたな?」

「たしかに聞かせてもらった。エステリオ王よ、非常に残念じゃが友好条約もシャルルの結婚も規約違反で全て破棄させてもらう」

「な、なぜお主がここに……生きて……」


 突如として姿を現したメルノア王の姿に初めて動揺するエステリオ王。

 俺はルドルフのオッチャンにシールドと透明化を施して一緒に連れてきた。

 死亡を確認しにジャフィールがメルノア城に侵入しようとするかもしれない。

 城には俺の超能力によるシールドが張られているが、そばに置くのが一番安全だからな。

 

 他の貴族たちが唖然とする中、アイツだけニヤリとしていた。

 さっきギルドであったときにすでに気付いてたけどな。


「まあいい。ここで皆殺にしてしまえばいいだけのことだ。ジャフィール!!奴らを片付けろ」

「仰せのままに」

「かしこまりました」


 他国の勇者がふらっと来るわけないもんな。最初に会ったときから俺に殺気を向けてた理由はこれだ。

 王の名により俺をパーティーから追放した。俺の出生は伏せられてたみたいだが。


「ああ、皆の者も落ち着いてくれ。これが片付いたらメルノア公国の土地も貿易も我々のものだ。もちろん内密にしてくれればだが」


 誰も異を唱えようとはしない。メルノア公国の聖騎士団すら洗脳されたのだから逆らえるはずもない。

 それどころか自分達の懐が豊かになるのならと期待するものまでいた。


 心を読めるのも良いことばかりじゃないな。


 国のトップがこれじゃ民も腐っていくのも頷ける。


「さあ覚悟しろよ反逆者メモリー!王のご命令によりこの勇者アラン様がお前を征伐してやる。今度こそ本物の貴族に俺は返り咲くんだ!」


 金も権力も人を狂わすとは言われてるがまさか勇者がねえ。

 アランが意気揚揚と俺に突っ込んでくる。

 ジャフィールもなにやら詠唱を始めていた。


「魔力のない無能の力を見せてやろうじゃないか」


 『無能力者』対『勇者・筆頭宮廷魔道士』の闘いが今始まる――

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