第20話 始まりの場所

「準備はいいか?大丈夫ならエステリア王国に出発するぞ」

「はい!メモリー様よろしくお願いします!」


 シャルルにいつもの明るさが戻って良かった。

 ルドルフのオッチャンも元気になったのはいいがムコ殿って呼び方はやめてもらいたい。


 あれからいろいろと進展があった。

 メモリーソードで魔法結界を斬りまくった結果、無事に城を開放することが出来た。しかしそれだけでは終わらない。


 メモリーソードが魔力を吸収しすぎたらしく、マオの魔力をすべて本人に返してくれた。それだけペンダントの呪いと結界魔法は魔力量が多かったのだろう。ついでにアイツらのも。


 どんだけ食いしん坊なんだよ。


 マオの体は俺と同じ大きさになって『真の魔王』の姿に戻った。美人すぎる魔王とか破壊力ありすぎる。

 元の姿に戻ればもう俺に用はないはず。だが彼女は「ちゃんと歯を磨けよ!またな」と謎の言葉を残し急いで魔界へ帰った。


 お前は俺のオカンか!


 少し寂しい気もするがアイツの魔力は覚えたし千里眼でいつでも確認できる。何かあればすぐに駆けつけるつもりだ。


「ルドルフのオッチャン行ってくるよ。何かあればすぐに戻るから」

「おう朗報を待っておるぞ」


 王様に対する言葉遣いじゃないが、本来の俺はこんな感じだ。無能だの言われてるうちに陰キャへと変わっていた。もう他人の評価なんてどうでもいい。ルドルフ王が俺たちに笑って手を振っていた。


 あんな父親だったら……


「瞬間移動!」


 俺とシャルルはエステリア王国の冒険者ギルドへ瞬間移動した。



 * *



 ギルドマスターの部屋へ直接瞬間移動したが誰もいなかった。

 千里眼で確認しておけば良かったと少し後悔。


「何かの間違いだ!やり直しを要求する!」


 1階がやけに騒がしいな。しかも聞き覚えのある声だ。


「冒険者ギルドとは賑やかなところですね」

「アイツらが特にうるさいだけだよ」


 どうやら剣を盗んだバチが当たったようだな。


「ギルドマスターは下にいる。俺から離れず後ろに隠れてくれ」

「はい!」


 あ、いや、そんなにくっつかれましても……


「僕らが不合格なんて納得できない!」


 あーあー荒れちゃって。勇者らしく少しは気品を持ったらどうだ?

 アランに負けず劣らずうるさいのがもう一人。


「私とアランは貴族よ?あとで後悔しても許さないから!」


 権力をかざすな権力を。これが昔の仲間とはまさに黒歴史だ。


「今までの実績から降格だけは見送ってやったというのにこの人達は……」


 ギルドマスターのオッサンも大変だな。俺にも責任があるけど後ろめたさはまったくない。悪いことをしたらお仕置きは必要だ。

 このあとも予定があることだしさっさと用事を済ませてしまおう。


「お取り込み中悪いんだがギルドマスターを借りてもいいか?」

「おお、メモリー様!これからご出発ですか?」

「うん?今帰って来たとこだよ。クエスト達成の報告に来たんだけど忙しいならアンナに手続きしてもらうけど」

「は?お戻りに……ですか?」


 何を驚いてるんだ?メルノア公国のご厚意で1泊してきたけど時間をかけすぎちゃった?


「お!アンナ、ちょうど良かった。クエスト達成の報告を――ってどうした?」


 先にいた冒険者の手続きが終わったタイミングでアンナに声をかけた。

 ギルドマスターがフリーズしちゃって。


 ところがアンナはギルドマスター以上に動揺していた。現実世界でワナワナするの初めて見たよ。

 気のせいか視線が俺を通り越してる気もするけど。敵意のない人の心をむやみに読むのは失礼だからやめておいた。俺ってば紳士。


「ちょっと待て!俺たちが先に話をしていたんだ。無能は引っ込んでろ!」


 この勇者――数日でかなり柄が悪くなってないか?薄々気付いてたけどな。俺も人のことを言えないくらい変化があったけどね。


「あなたがクエスト達成ですって?笑わせないで。どうせ薬草とか花でも採取してきたんでしょ」


 エミリも相変わらず面倒くさいな。もう馬鹿にされようが罵られようが気にならないって。


「よくわかったな。とびっきり上等なはなを連れてきたとこさ。放っといて早く確認してもらえる?」

「はっ。ええもちろんですとも!この方達との話は1時間前に終わっています。大変失礼いたしました」


 やっとヤル気スイッチの入ったギルドマスター。

 1時間もクレームをつけられてたのか。可哀そう。


 ところが俺とギルドマスターの間にまだ割り込むやつがいた。もちろんラクスだ。俺の身につけてる剣をチラチラ見ている。作戦だろうがもう二度と渡さねーよ。


「随分と態度が大きくなったじゃない。口調まで滑らかになって何様なのよ!」


 「俺さまだ」とか一度言ってみたいけどこれ以上シャルルを待たせたくないからガマンガマン。


 そんな配慮を見事に壊してくれたのが天然なお姫さまだった。


「メモリー様です!」


 間違っちゃいない。うん、たしかに俺はメモリーだから間違っちゃいないわけだが……


「そんなの聞いてないわよ!」

「えええええ!」


 普段からのシャルルを知る人間なら決しておちょくってるわけじゃないと誤解されないが――


「ば、馬鹿にして……あなた誰よ!?フードを被ったまま人と話すのは失礼よ!」

「メモリー様の言いつけですから」


 どこまでも純粋なシャルル。真面目で良い子なのだ。それに対して悪い女は(聖女だよな?)


「はは~ん。今夜、王宮で開かれるパーティーのそいつのパートナーね。そこの受付嬢が仕事で来られないからって外国人の貴族でも連れてきたのかしら?」


 ガタン!


 アンナ、魔石を落としたけど大丈夫か?


「わたしくしはメモリー様の幼馴染です!失礼なことを言わないでください。さらに言えば、こんや――フゴフゴ」

「それぐらいにしておけ2階で手続きしよう」


 コイツらの相手をするだけ無駄だ。他人をストレスの吐け口程度にしか思ってないからな。

 シャルルの口を抑えフゴフゴ言いながらも落ち着いてくれた。


「あら?私以外に幼馴染がいるなんて初耳ね。どこの出身かしら?パーティーでは多くの貴族が集まるわ。フードを脱いで恥をかかなければいいけど……ふふふ」

「まあまあ大きな施設だよ。おっと忘れてた。Sランク昇格試験に落ちたようだな。まあ頑張れや」


 応援してないけどな。なぜそれを!って顔をするダイヤの盾一行。


 シャルルに対する態度は許せないがエステリオ城に入るまでは身割れしたくない。超能力でフードの中の顔は透明にしてるから安心だが油断はしない。


 やられっぱなしも癪なのでステータスも思考も全部見させてもらった。

 さすが勇者と聖女といったところか。魔王のマオと違い、職業の恩恵とスキル効果で魔力が少しだけ――


「さて、手続きが終わったら街をぶらぶらするか?」

「はい!」


 周りが騒がしいようだが念動力のシールドを張っているから何も聞こえない。

 口をパクパクさせて金魚みたいで面白いな。餌は持ってないぞ。


 昨晩は新たに目覚めた超能力を研究し、すべてを記憶したから準備万端。シャルルは必ず俺が守る。



  * *



 エステリオ王国は言わずとしれた魔法国家。

 パーティー会場である大広間も魔法の装飾が随所に散りばめられていた。


 宙を舞うたくさんの豪華なシャンデリア。様々な輝きを放つステンドグラス。

 天井には宇宙を彷彿させる星々が夜空を彩っている。


「ここに来るのも久しぶりだ」


 すべてはここから始まった。

 俺に魔力がないという理由だけで捨てられたのだ。


 いつか殺してやる……なんて物騒なことは考えちゃいない。

 もちろん借りは返してもらうけどね!


 俺とシャルルは誰にもバレることなくパーティーに潜入した。

 シャルルはこのパーティーの主役だけど、まさかメルノア公国のお姫様が男連れで入場してくるとは誰も思っていない。ましてや俺はエステリオ王国でも有名な『魔力のない無能な男』。

 流石に階級の高い爵位の人はそんなどうでもいい噂が耳に入る機会もないので男爵家から子爵家までの話になる。


「本当に平民風情が出席するとはな」

「端っこで小さくなってなさいよ」


 初っ端からこの二人か。お前らだってたいして変わらないだろ。

 アランのステータスは俺の千里眼で丸裸にしている。イヤン。

 貴族だと本人も言ってたが――


 ついでにラクスのドレスだけ透視した。不自然な感じがしたからだよ?

 なるほどなるほど。冒険者ギルドのアンナを敵視するわけだ。


「クックックッ」

「何笑ってるのよ!私に見惚れてたくせに」

「笑って悪かった。そんなに胸パッドで盛ってるとは思ってなかったから。アランも貴族は貴族でも……」

「「!?」」


 やべ、つい言っちゃったよ。息ぴったりでお似合いだ。でもセクハラ反対!見栄を張って嘘をつくのも反対!


 シャルルには「メモリー様、メッ!」って怒られたからもうしない。全然怒られた感はないけど。


「将来のためにお互い嘘はやめておけ。アランの爵位も聞いておいた方がいいぞ?いらぬお世話だと思うけど」


 二人が結婚するならそれもいい。アランに爵位があればの話だけど。


「お、始まるみたいだぞ。おかしいな……主役のシャルルがここにいるのに」


 波乱のパティーがいま開幕した。 

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