第19話 呪い
「すべてはエステリオ王国が仕組んだことだと申すのか!?」
「はい、間違いありません。まずは私をエステリオ王国から追放し、シャルル皇女様との婚約を白紙にもどしました。次に少しずつ陛下に呪いをかけ新たにジャフィールを婚約者としてあてがったのです。陛下が婚約を認めると少々不適切な言葉になりますが亡き者にしようと……」
さっきジャフィールとすれ違ったときに、ステータスはもちろん頭の中まで覗かせてもらったから間違いない。
あんな一瞬でここまで詳細に話せるのは俺の【完全記憶能力】のおかげだ。
この話にはまだまだ先があるけど陛下に一旦冷静に考察してもらう必要があるからな。
「それでわたくしは今週エステリオ王国に招待されていたのですね。あちらの予定では不在の間にお父様が命を落とすはずだったから……。はっ!そ、それでは急にジャフィールがやってきて治療の名目でかけた魔法も呪いなのでは!?メモリー様にいただいたエリクサーのおかげで一度は元気になったのですが今はご覧のとおりで」
千里眼でルドルフ陛下のステータスを確認した。
『 ステータス異常 : 呪い(強)30分以内に死亡 』
「あちらも強硬手段にでたようですね。強い呪いの魔法がかけられています」
「しかし……シャルルが欲しいだけなら私の命など――ぐふっ!?」
陛下が紫色の血を吐き出した。手遅れになる前に手当をしなくてはならない。
「お、お父様大丈夫ですか!早く呪いを解かなければ……。しかしこの城にはいま魔法が使える者はおろか聖騎士も従者もみなエステリオ王国に奪われ……」
「詳しい話はあとだ。シャルル、陛下を支えててくれ」
「は、はい!」
「透視!」
今回は少しずつ呪いをかけたんじゃないな。自分が去ってから息絶えるように呪いをかけている。アレも原因の一つか。
「ご丁寧に二重に呪いがかけられてる。ヒーリング!」
陛下の心臓に手を当ててヒーリーング能力を開放した。この能力は未知数な部分が多いがやるしかない。
またエリクサーを手に入れたくてもダンジョンボスを倒してから5年間はエリクサーをドロップすることができないからだ。貴重なアイテムだし当然だろう。
「お、お父様の顔色が少しずつ良くなってきました!それなのに……どうしてなの?こ、呼吸が今にも止まりそうです!お父様!お父様しかっりしてください!」
「仕上げはこれだ!念動力!」
陛下の首にかけられていたペンダントを念動力ではずして宙に浮かせメモリーソードを振り抜いた!
バリーン!!
ペンダントは跡形もなくシューと音を立て消えていった。
「わ、わしの体はいったい……」
「すべて解決したので安心してください。あのペンダントが長期にわたり呪いをかけていたようです。一時的にエリクサーで解かれたもののジャフィールが再度来て呪いをかけたんでしょう。今度は心臓とペンダントの両方に」
「エステリオ王国から友好の証にもらったあのペンダントが原因だったとは……。メモリーよ、この老いぼれの命を救ってくれて感謝する……ありがとう」
「頭を上げてください!お、俺は……じゃなくて私はただの平民ですよ!」
一国の王が簡単に頭を下げるものじゃない。ましてや俺は平民だぞ?
「なにを言ってるのだ?将来はシャルルの旦那さまだろう」
「えっ!?」
ややこしくなるから声をだすんじゃねー!
マオの顎がガクンと落ちて間抜けな表情を浮かべていた。
「いまなにか聞こえたような?」
「私の声ですよ!白紙に戻ったシャルル皇女様との婚約の話をするから驚いて声を上げてしまいました」
「シャルル皇女様?昔のようにシャルルとお呼びください。先程のように……ふふふ」
「シャルルもこの通りだ。メモリーが生きていたのだから昔であろうと婚約は有効だぞ……ふふふ」
さっきは必死だったからつい昔の癖で。
とても死にかけてた親父と娘の顔には見えねえぞ?
「そ、それより配下の方たちのお話をお聞かせください」
外にはたしかに巡回する衛兵がたくさんいた。
これからシャルルがエステリオ王国に向かうとして俺にご護衛を頼むのは何度考えてもおかしい。
逆に城は魔法結界で覆われている。中には家来が誰もいないし何から身を守る結界なんだ?
「ある時から家臣たちをエステリオ王国に奪われてしまった――」
ルドルフ王が静かに語りだした。
* *
王様の話をまとめるとこうだ。
友好条約更新の盛大なパーティーが開かれた。
その日は重要な祭典ということもあり多くの貴族や騎士が招待されていたそうだ。
そして筆頭宮廷魔道士であるジャフィールがパーティーの進行をするとすぐに異変が起こった。
メルノア公国の重要な大臣達はおろか警備にあたっていた聖騎士団までもがエステリオ王国に寝返ってしまったのだ。
そうなると両国の力の均衡が壊れたも同然。
エステリオ王国の国王は以前から要求していたシャルルとジャフィールの婚約を迫ってきたらしい。
驚くことにジャフィールは筆頭宮廷魔道士でありながらエステリオ王国の皇子として迎えられていた。
「エステリオ王国の王妃様がそんなことを許すとは思えません」
「まだ言ってなかったな。なんでも謀反を企てたとかで現在は逃亡中だ。いまの王妃はジャフィールの母親だ」
おいおい俺の祖国はどうなってるんだ?
「おそらくジャフィールの洗脳魔法ですね。あのオッサンいい歳してシャルルと結婚とか夢見すぎだ」
「まあ!わたくしのために怒って下さるなんて」
いやそうじゃなくて。マオも俺の鼻に頭を突っ込もうとするな。
なるほどな。メルノア公国の国王が亡くなったと同時にシャルルはエステリオ王国に嫁ぎ空いた王位をそのままジャフィールが継ぐと。
「それでどうします?とりあえず俺はこの邪魔な結界を壊して外の兵士達の洗脳を解いてきますが。この結界自体が牢獄の役目をしてたんですね」
目をまん丸にしてルドルフ陛下もシャルルもどうしたんだ?
「はっはっは。昔の生意気な小僧が本当に戻ってきたようだのう。ワシを治療したり力も伴っておるし頼もしい限りだ。恥を承知でお願いする。メルノア公国をシャルルを守ってはくれぬだろうか?」
「もちろんそうこなくっちゃ!俺もエステリオ王には頭にきてるんでね」
あかん。歯止めが効かなくなってきた。まあルドルフのおっちゃんも元気になったしいいか。
俺はすぐさまジャフィールの結界を壊し残っている兵士達の洗脳を超能力で解いてやった。
シャルルをエステリオ王国まで送り届ければクエストもクリアだ。もちろんシャルルをそのまま渡す気はないけどな。
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