第五十五話 旅の準備と次の謝罪相手



「ゴブリンが十匹、フォレストウルフが五匹、オークが六匹ですね。討伐お疲れ様です。報酬をご用意しますので、少々お待ちください」


「ああ、よろしく頼む」



 ミザリーとの試合から一週間ほどが経ち、俺はハンターランクを一足飛びにCランクに上げていた。もちろん、俺の仲間であるアンネ……アンネロッテも同様だ。

 訓練最終日の模擬戦闘訓練は、そのままランクアップ試験として扱われたらしい。だからあの時の見物人に、ハンターギルドの職員もたくさん立ち会っていたんだな。


 Aランクであるミザリーと共にクエストを受け、討伐の実績も充分。そしてその彼女との戦闘であれだけ渡り合えるのならばと、特例での飛び級が叶ったというワケだ。彼女の推薦もあり、さらには試合を見せ付けられては疑う余地も無しということで、ギルドからも他の冒険者達からも特にやっかみだとか、そういった疑惑の声も挙がらなかった。


 そうしてハンターランクを上げ自信の付いた俺は、最近ではこのピマーンの街近郊の〝木霊の森〟で採取依頼だけでなく討伐依頼も、徐々にではあるが数を増やしてこなすようになっていた。



「お待たせいたしました。今回の討伐報酬は全部で金貨四枚と、銀貨が三十枚、そして銅貨が五十八枚となります。お確かめください」


「ああ。…………うん、確かに受け取った。またよろしく頼む」


「こちらこそ、またのお越しをお待ちしております」



 危険度を考えれば採取系と奉仕系の依頼が妥当なのだが、やはりモンスター討伐依頼の方が実入りは確実に良いのだ。

 特にこの街付近の〝木霊の森〟は立ち入りがEランクハンター以上と定められているから、同じく仲間ではあるがまだ幼いニーナを連れて入ることができないからな。街の教会に預けて留守番をさせ、寂しい思いをさせている代わりと言ってはアレだが、その分稼いで少しでも充実した旅路を送れるように努力するべきだろう。



「サイラス様、お疲れ様でした」


「お兄ちゃん、お疲れさま! おかえり!!」


「ああ、ただいまニーナ。アンネ、迎えに行ってくれてありがとうな」



 ハンターギルドの建物を出ると、ちょうど教会に迎えに行ってくれたアンネと、留守番してくれていたニーナが合流した。

 俺は預かって代わりに提出したギルドカードをアンネに返すと、駆け寄って俺の腰に飛びついてきたニーナを抱き上げて、腕に腰掛けるようにして抱える。



「教会のみんなは変わりなかったか?」


「うん! みんな新しい服を見せ合ったり、お洗濯の仕方をバーバラおばあちゃんに教わったりして、元気いっぱいだったよ!」


「そっか。子供達が喜んでくれたなら何よりだな」



 俺とニーナが依頼で留守にする間、ニーナを預かってくれている教会。俺はお礼を色々と考えた末に、孤児達のために衣類を寄付したんだ。元気盛りの子供達はよく服を汚すだろうし、身体が大きくなればすぐに入らなくなってしまうからな。

 教会のシスターでもあり孤児院の院長でもあるシスター・バーバラには、中古の服だから気にせずに受け取ってほしいと伝え、いたく感謝され照れ臭かったな。


 ちなみに、子供達の服とは別にアンネやニーナもまた服を欲しがって、また少し出費がかさんでしまったのは余談だ。



「今日は結構稼げたから、店屋物じゃなくてまたシャロンの店にでも行くか?」


「あの娘のサイラス様に向ける視線は気になりますが、ヨーグルトは良い物です。是非そうしましょう」


「わーい! ヨーグルト! あれ美味しいよねー!」



 いやアンネ、なんだよ視線って……? 彼女は単に俺の謝罪を受け入れてくれただけなんだけどな?


 とはいえ、実力も付いたし路銀も貯まりつつあるから、近々この街を出立する準備も進めていかないとな。保存食や回復薬、装備の手入れ道具などの消耗品をまた揃え始めないと。

 そのための景気づけとして、俺達は街の繁華街へと繰り出して、ずいぶんと馴染みになったシャロンが働く食堂へと足を向けたのだった。





 ◇





「さて……旅の準備も進めなきゃだがアンネ、この街にはもう俺の謝罪相手って居ないのか?」



 シャロンの店で英気を養った俺達は、その翌日に旅の日用品の買い出しへと繰り出していた。

 その道中でニーナが品物を選んでいる間に、俺はこの旅の本来の目的について、アンネに尋ねていた。



「そうですね……。まだ居るかどうかは定かではありませんが、三人ほど心当たりがあります」


「三人もか? それは、家族ぐるみで迷惑を掛けてしまったとか、そういう……?」



 アンネの答えに、愕然としてしまう。そうだとしたら、今度は一体何をしてしまったんだろう。

 何しろ過去の俺ときたら、相手が誰であろうと所かまわず、それこそ八つ当たりで因縁を吹っ掛け回っていたからな。相手の顔も名前すらも気に留めることなく傍若無人に振る舞っていたせいで、とにかく謝罪相手に会わないことには思い出すこともできない始末だ。


 公爵家という後ろ盾をいいことに、本当に好き勝手生きてたからなぁ。謝りたくても相手が分からないなんて、そんなこととてもじゃないがその人達には言えないけど。

 だけど一度決めた以上は、ちゃんと思い出したいし謝りたい。だからこそ、そんな俺に付かず離れずずっと一緒に居てくれたアンネが、とても心強い。本当に、彼女がこうして付いてきてくれて良かったと、そう心から思う毎日だ。



「いえ、家族ではなく……その三人は、ハンターです」


「……え?」


「三人組のハンターのパーティーで、確か名を【宵の篝火かがりび】といったかと。このピマーンの街が拠点であったかと、記憶しています」



 と、いうわけで次の謝罪相手の手掛かりが掴めたわけだが……、今から一筋縄ではいかない予感がヒシヒシとするのは、気のせいだろうか。


 いやホント俺、ハンター相手に一体何しちゃったの……?




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異世界で、貴族な俺が土下座する~前世は社畜で謝罪要員だった俺が、ユニークスキル【土下座】を駆使して謝罪と冒険の旅をする話~ テケリ・リ @teke-ri-ri

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