恐れというものの本質。またそれに向ける感情と行動の歪み。

生々しい恐怖があった。

吸い込める恐怖があるとしたら、本作は正しくそれだと思う。

本質的には、生への執着を根拠とした恐怖を描いた物語なのだが、その表で描かれた物がまた恐い。


諸兄は、マイノリティ、という立場を経験された事があるだろうか。
その有無によって、この物語のまとう衣の強烈さに対する認識は大きくズレる気がする。


マイノリティとは弱者ではない。
少数なのだ。


僕が最も打撃を受けたのは、強者とそれに纏ろうポジションにいようが、その社会における少数であれば容易く生命を脅かされるという点である。
蠢く無数の蠅が、その集合が、それを現しているようで怖気が止まらなかった。


強者には、またそれに纏ろう者であれば、暴力を向けていいのか。
力で反抗していいのか。


なかなか直面する事の難しい恐怖がさらりと描かれている。
僕には、それが何よりも恐ろしい。

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