今日も懲りずに『あと5分』

CHOPI

今日も懲りずに『あと5分』

 ――ピピピッ、ピピピッ……


 無機質なアラーム音で目が覚める。スマホを止めるために出した手が思いの外冷えて、慌てて温かい布団の中に手を戻した。起きなきゃいけないと思いつつ、この時期のこの時間は悪魔的に誘惑が強い、なんて思う。気を抜けばすぐに落ちそうな意識を必死で繋ぎとめ、ゴソゴソと寝返りを打ちながら抱き枕を抱え直す。


 ……、あと、5分だけ


 そして結局甘い誘惑には勝てず、守られることのない『あと5分』を言い訳にして、夢と現実のはざまを行き来する。ふわふわ、ぬくぬく。温かい布団の中に包まれた、ゆらゆらとした定まらない思考の時間感覚なんて全くアテにならないって、わかり切っていることなのに。今日も今日とて懲りずに、ゆらゆら、ふわふわ。


「7時だぞー」


 お母さんの慈悲の声掛け。この声掛けで起きれば、準備だって余裕をもってできるのに。残念ながら、寝起きの頭で返す言葉は決まっていて。


「……わかってるー。ちゃんと起きるー」


 お母さんの、そのお情けの声掛けに対して『起きる』とは言うけれど、『起きたよ』と言ったことは……未だ、無く。


 ――ピピピッ、ピピピッ……


 スヌーズ機能のアラームが鳴る。


 んー……、いい加減に起き出さないと、またギリギリの準備になっちゃう……。


 そうは思うのに、悲しいかな、失敗しないと反省しないのが人間のさが。いつも、そのギリギリで間に合ってしまうから、結局今日も。ふわふわ、ぬくぬく。


「……7時半、過ぎてるけどー?」


 お母さんの二度目の声掛け。そしてそれは、絶望の声掛け。


「……!? うっそ、え、もう!?」


 体感時間は、秒も秒。二度寝っていうのは本当に、なんでこうも気持ちが良いのか。毎晩、『明日こそは二度寝しないで早く起きる!』なんて意気込むのに、その朝を迎えると、どうしても甘い時間に誘われて、その気持ち良さに包まれて。


 ……だけど悲しいかな、その時間って、何度繰り返したところで、体感時間がびっくりするほど本当に短い。まさに一瞬の出来事。毎回その速さに、疑いを持ってスマホや時計を見るけれど、どの時刻もお母さんの教えてくれた時刻と狂いがあるはずもなく。


 しかも二度寝って、得られるのは満足感じゃなく、準備が間に合うかどうかの切迫感と、頼む、間に合って!!という、切実すぎる焦燥感。お決まり通り遅刻ギリギリで、慌ててドタバタと準備を済ませて玄関から駆け出せば、後ろから追いかけてくるお母さんの『いってらっしゃい、気を付けてねー!』の声。その声に出せる限りの声で『いってきまーす!!』と返しながら、自転車に飛び乗って重たいペダルをこぎだす。



 そうしてギリギリ、今日も懲りずに間に合ったので。

 恐らく明日も、二度寝決定。

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