第6話 ロミからの言葉で…
「…ラネ…?」
応答はない。
只、重い沈黙と、温かすぎるラネの熱で、2人だけがこの夏に溶けて行きそうだった。
「くッ…」
「…ラネ?泣いて…る…の?」
その言葉に、一瞬突き飛ばすように、自分から引き寄せたレルの腕を、少し強く自らの肌から滑るように離した。
そして、ラネは自分の家へ入って行ってしまった。
「…ラネ…」
解ってはいたんだ。
レルにだって。
ラネが自分の事をずっと想っていてくれていた事を…。
だって、レルにだって、ラネは特別な存在であることは、確かだったのだから。
好きだった。
レルも…本当はラネが好きだった。
でも、レルは待ってしまった。
小学校時代、遠足で手を繋いだ時。
中学校時代、体育祭の男女混合リレーで、繋いだバトンを受け止めてくれたくれた時。
中学校の卒業式、友達とはしゃぐ中で、2人きりで、ラネと写真を撮りたいと言い出せなかった時。
好きだった。
レルも、ラネをずっと想っていた。
でも、いつかラネから言い出してくれる。
だって、ラネは男なんだから。
女の自分から言い出さなくても、きっとラネが言ってくれる。
「好き」
…と。
しかし、中学最後の春休み。
出逢ってしまったんだ。
ノベ。
その人に。
それは、ラネには感じなかった感情だった。
だって、レルには解ったから。
ノベは決して困った人を見かけて黙っていられる人ではないって事を。
それなのに、どこで覚えて来たのか…ずっとモテモテの人生を歩いてきたのだろう。
口は悪い。
態度も酷い。
愛想もない。
それなのに、レルは、頬が赤く染まるほど、涙が出るほど、ノベに、恋を、恋をしてしまったんだ。
ラネとは比較にならないほど、唐突に。
ラネが好きだった自分が、ラネに対して持っていた感情は、幼馴染としてのよくある未熟な感情だったのだ、と。
「ごめん…ラネ…」
呟いて、レルはコンビニの前で、一人、立ち竦み、服の袖でぐっと涙を拭った。
「おはよー!レル!」
「あ、おはよ、ロミ」
『ロミ』と言うのは、飛時ロミ《ひときろみ》。高校で一番最初に友達になった生徒だ。
比較的、地味で目立たない。
友達も広く浅く、と言うよりは狭く深い…と言う感じだ。
その深い一人が、レルだ。
入学して、一週間も経つのに、休み時間も一人で席に座りっぱなし。
オドオドして、いつも下を向いていた。
そんなロミを見かねて、レルは、ロミに話しかけた。
それから、ロミは、休み時間に時々レルの席に足を運んだ。
そして、今ではレルの友達の一人だ。
しかし、今、レルにとってロミは手放しで喜べる存在ではなくなってしまった。
「ねぇ、レル…」
「ん?」
「レルは…やっぱりノベ君が好きなの?」
「え?な、なんで?」
「そりゃ、ノベ君の態度があれじゃあ…」
「う…で、でも…ノベは親しくなれば、誰にでもあぁなんじゃない?解らないけど…」
「そうなの?」
「う、うん。多分…」
変な汗が出そうだ。
「…」
「何よ、それがどうかしたの?」
「私…好きな人が出来ちゃって…」
「好きな人?誰?」
「ら…ラネ君…」
「!」
左手の小指がピクッと動いた。
「そ、そうなの?」
「でも、駄目なんでしょ?どうせ…」
「え?何が?」
「だって、ラネ君が好きなのはレルじゃん…」
「それはぁ、ほら、幼馴染だからだってば!」
思わず声が大きくなる。
「じゃあ、やっぱり、レルはノベ君が好きなの?」
「さ、さぁ…」
「何よ、それ。可笑しい」
もっと深刻な話になると思ったが、ロミがあっけらかんと笑ったので、レルは少し、安心した。
そして、不安になった。
ノベが好きなのに、ラネを好きだとロミに言われ、驚いている自分に、怖くなった。
もしかして、『自分はどちらにも自分を好きで居て欲しい…』などと、身勝手な事を思っているのではないか…と。
そんな事、許されていいはず無いのに…。
許されるはずが…無いのに…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます