第4話 好きになるしか…

ちょうど、入学式の1週間前、レルは、コンビニで買い物をしていた。

お金を払い、お財布の小銭入れを開けっぱなしで店の外に出ると、小銭がばらばらとあちらこちらに零れてしまった。

「あ!」

焦ったレルは、慌てて拾おうとした。

しかし、百円玉二枚、側溝の網の中に落ちてしまった。

一枚は、水の中に入ってしまって取れなかったが、もう一枚の百円玉は側溝の端の中に取れそうな、でも、ひっかかっていて、何とか取り出せないか人目を気にしながら、レルは人差し指をぐりぐりして格闘していた。


すると…。


誰かの手が、レルの手をギュっと握った。


「取ってやる」

「え…?」

レルが顔を上げると、そこに居たのが、まさか再会するとは思ってもみなかった、古井志ノベ、その人だった。

「あんた、百円でえらい頑張ってるな。うける」

顔は全くうけている様には見えなかったが、器用にひょいと網の中から百円玉をレルの手のひらに乗せた。


レルは…そう、この時、レルはノベに恋したのだ。

余りに、恰好良すぎて、一瞬呼吸を忘れた。

掌に乗せられた百円玉を握った手が震えた。

「あ、ありがとうございます!」

慌てて、お礼を言った。

「別に。あんたの事見覚えあったから。前に彼氏といたろ」

「え?」

「高校の合格発表の時に」

「あ、や!ちっ違う!彼氏じゃない!只の幼馴染です…」

「へー、まぁ俺には関係ないけど…。じゃあな」

「あ、うん…。本当にありがとう…」

そう言ったのをノベにはきっと聴こえていない。


レルは、バクバクする心臓に、未だ寒い風が吹く季節なのに、体中熱くて熱くてコートを脱ぎたいくらいだった。


「合格発表…じゃあ、もしかして…高校で会えたりするのかな…」


レルは、ずーっとノベの背中を見つめていた。



そして、高校に入って、同じクラスで、しかも隣。


その未来を知らなかったレルは、自分でも驚くほど、ぽろっと涙が一粒、零れた。

だって、高校は1組から12組まである。

そのクラスで一緒になる可能性と、席の、近いか遠いか、の運。

そのどちらも、計り知れなかった。



そして、入学式の当日、ラネと高校に向かって歩いていると、突然、が向こうから歩いてきた。

一気に纏っていたチークが、顔中真っ赤に広がってしまいそうで、レルは、チラ見しながら、込み上げてくる期待と、ラネが恋人だと思われている事に、すごくラネには悪いが、一応あの時伝えたが、もう一度、きちんとラネとは恋人関係ではないと、伝えたかった。



しかし…自己紹介で、衝撃の口の悪さに、勝手に好きになって置いて、少し戸惑ったが、レルにとって初恋のノベは、そんなくちが悪いだけで、嫌いになるなんて選択肢はなかった。

ただ、あの時の百円玉事件で、助けてくれた時から、クラスが一緒だった事に加え、隣の席にになった事を、レルはと思った。


もう、好きになるしかなかった。



もう…好きになるしか…。

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