第3話 ノベと言う男

レルは驚いた。

朝、右顔を覗かせて見つめていた男子が、入学式の列に並んで、隣にいた事に。

中学時代のレルなら、とっくに話しかけてるはずが、ラネはそのレルの少し赤らんだ頬に、一秒も目が離せなかった。

(レル…もしかして、あいつの事が好きなのか?)

もう16年間、ずーっと近くで、ずーっと好きで、ずーっと彼氏になりたかったレルの視線に、反応しない方がどうかしてる。


「一年生、挨拶代表、古井志こいしノベ君」


(え!?あいつ、トップでこの高校入ったのかよ!トップは俺だとばっかり…)


この時点で、身長も、顔も、成績も、何一つ勝てていない。

それに、レルの気持ちさえ、奪われているのもラネには分かった。

でもいつだ?

いつ、今日初めて会ったはずの、あのノベと言う男に“恋”したのだろう…。


そう、“恋”…。

ラネには、それすらもお見通しだった。

それも、ラネの知る限り、恐らく…いや、完璧に『は・つ・こ・い』初恋だ。

それでも、ラネにも久々が付いてきた。

レルと同じクラスになれたのだ。

同じクラスなんて、小学校5年生以来だった。


(あいつ…絶対レルはやらないからな!!)


1人、闘魂を燃やして、気合を入れた入学式になった。





「それでは、今日から同じクラスで学ぶ生徒同士、自己紹介をしてもらいましょう。1番は、成績トップで入ったから、もうみんな知ってるとは思うけど、一応、もう一回してもらいましょう。古井志君。前へ」

「…はい」



女子の瞳が輝き、頬は赤らみ、上目遣いになっている、いわゆるぶりっ子も、歓声が口から零れてしまう直前…、


「今、俺の事、見ながら、真っ赤な面して、格好いい、とか、一緒のクラスでラッキー、とか、彼女になりたい、とか、そーゆーの、マジうざいし、キモイ。完全無視するから。ほんじゃ」


……………。


そう言うと、ズボンのポッケに手を突っ込み、席についてしまった。

しかし、ラネは、見てしまった。

あんな自己紹介されたのに、ノベが隣の席に戻ると、ノベとは反対の方向に顔を向け、ミディアムの髪の毛で、必死に…自分の火照った頬を、隣にいるノベにさっきの自己紹介の仲間にならないように、自分はノベの事なんて好きじゃない…、なんて言ってるみたいに、隠しているのを、まざまざと…。


(どこが良いんだよ…レル…あんな自信過剰なスッゲー嫌な奴じゃん!!)


ラネは、滅茶苦茶腹が立った。

ラネは16年間、ずっと大切に、大切にしてきた、レルが、ノベのような男に盗られてしまうなんて、考えられなかった。

…考えたくなかった。


その日の放課後、レルが一緒に帰り道を辿ったのは…辛うじてラネだった。

ラネには、どうしても聞きたいことがあった。



ノベの事だ。


ノベに何処で出会ったのか、何故、好意を向けるようになったのか、気になって、気になって仕方なかったから。


「なぁ」

「ん?」

一日中赤らんでいた頬が、今はまったくそんな素振りは無い。

「…」

「何?自分から呼んどいて黙りこまないでよ」

「あ…ごめん。あの…さ、レル、好きな奴いるだろ?」

「!」

レルの頬が一気に真っ赤に染まった。

「いっいないわよ!何、突然!ばーか」

「嘘ついたって解るよ。俺たち、何年一緒にいると思ってんだよ」

「うるさいなぁ!!」

「!」

レルが、本気で怒った。

その大声に、たじったラネは、とても悲しい顔をしていたのだろう。

レルが、はっ!とした顔に変わった。

「ご…ごめん。怒鳴ったりして…。でも、本当に好きな人なんていないから…」

「そっか…ごめん、変な事聞いて…」



そこから、2人はぎくしゃくしながら、嘘とも思える、永い帰り道を辿った…。


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