第5話 動き出した、それぞれの恋。

「早く言え!めんどくせーな!」

「な!そんないい方しなくても…!」

「どうせ俺の顔でも見て、そっからあんたの都合の良い性格作ったんだろ!?それこそ失礼だ!俺はあんたの事なんて知らねぇからな!帰る!」

「な…っ!」


高校に入って3ヶ月。

思った通り、ノベは女子の間で、王子様的な存在と化していた。

その性格の悪さも一気に噂が広まったが、それでも、それがクール!あのビジュアルなら、性格なんてどうでもいい!

そんな声も広く聞こえるようになっていた。


もちろん、余りの酷い振り方に、傷つき、以来ノベの悪口を言って回る女子も、続々と増えてはいたが、本人はな~んにも気にせず、マイペースで、傷つけまくっても、平気な顔で高校生活を送っていた。



そして…、レルは…思いもよらない事態になっていた。


あの、口の悪い、意地悪で、マイペースで怒りっぽい古井志ノベが、笑いかける、たった一人のクラスメイト、として有名になっていたのだ。


「なぁ、姫原ひめはら、なんかお前初めて会った時とは違うな」

「ん?何が?」

「あんまドジじゃない」

「はぁ!?当たり前でしょ!あの時はたまたまだったの!」

「あはは!でも、後2、3ヶ月でぼろ出しそう…くくくっ」

「もう!は本当に性格悪いよねぇ…。いつか女子が総力で殺しに来そう…」

「はぁ?俺殺されるの?」

「殺されます!!」

ひっでー!!」

「酷いのは誰よ…」



ラネは、そんな会話をせっかく同じクラスになれたのに、あのねじ曲がった根性のノベに、出遅れている事が、許せなかった。



!?なんだよ!まるで彼氏みたいな位置関係じゃないか…!)



「なぁ、レル!」

「ん?あぁ、ラネ。どした?」

「ん…と、今日は部活ないし、一緒に帰れるよな?」

「うん。いいよ」

「え…本当!?」

「なにさ、毎週木曜日はいつも一緒に帰ってるじゃん!」

「いや…って言うか他の日も一緒に帰ろうよ。俺、いつも1人だし…」

「もう!いつまで甘えてんの?もう高校生なんだし、お互いの事情だってあるでしょ?木曜日は一緒に帰るから、ラネはもっと友達作れば良いんだよ。じゃなきゃ、高校生活楽しめないよ?」


「くっ…」

「!」

突然、ノベに鼻で笑われた。

「な!なんだよ!古井志!お前に笑われる憶えはないぜ!?」

「見た目、あんたもまぁまぁいけてるみてぇだけど、全然それ活かせてねぇし。レルにとっては只の駄々っ子じゃねぇか!」

「ふざけんな!お前にそんな事言われる筋合い無いんだよ!レルとは生まれた時からの幼馴染なんだ!古井志!お前こそたくさんの女子泣かせていい気になって、もしも!もしもこの先、レルを傷つけるような事したら、絶対許さないからな!!」

「ちょ…二人とも…」


そう。

この日、ラネとノベは明らかにレルを奪い合う形となった。

いわゆる、『三角関係』と言うやつだ。

それもかなりわかりやすい。

ラネとノベがレルを好きで、レルは、どちらに気があるのか、よく解らない…。

と言うような…。




「…」

「…」

無言の帰り道。

お互いの家に着く10分前。

やっと2人に会話が生まれた。


「ご…ごめんな、レル…」

「ホントだよ、ラネ。一体全体どうしちゃったの?」

「…」


ここで、『レルが好きだ』と言えたら、そんなに楽な事は無いだろう。

だって、そんな簡単に出来る事なら、16年間、何度も何度もチャンスはあった。

チャンスだらけだったのだから。


しかし、止まらない、今にも心からと言う病が、酷い熱病のように溢れだしてきそうで、好きで好きで好きで…。


ラネは…レルの右手をグッと自分の元へ手繰った。

そして、強く、強く、レルを抱き締めた。


「!」


ぎゅ…ぎゅぅ…ぎゅう!


抱き締める強さが増してゆく…。




この16年を丸ごと包み込むように――…。

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