第7話 い・ろ・は
木曜日。
「…」
「…」
二人、無言の帰り道。
ラネはずっと視線を道路へ落とし、レルはわざとラネのスピードに追い付けない…みたいな遅い歩みで、ラネの、人、二人分くらい、後ろを歩いていた。
同じく、下を向いたまま…。
すると…、
「ふぎゃ!」
突然レルが変な叫び声…と言うか何かに押しつぶされたような声を上げた。
ラネの背中にぶつかったのだ。
「ラ…ラネ?どうし…」
そっとラネの後ろから顔を出すと、ラネの…レルの家の前に驚くべき人物が立っていた。
ロミだった。
「ロミ…どう…」
すぱぁあん!!
ものすごい勢いで、レルの頬を平手打ちした。
時間が…止まった。
ロミ以外、誰も状況を読み取れない。
何が起きた?
なんでロミがここに?
どうしてレルをひっぱたいた?
何が…なんで…どうして…。
「サイッテ―!!ラネ君!そんな男ったらし、放っておきなさいよ!」
「飛時さん…何言って…」
「レルはねぇ!ラネ君、そしてノベ君の両方から好きで居て欲しいって思ってんのよ!特別可愛い訳でもないのに!このブス!!!行こう!!ラネ君!!こんな女に振り回されることないよ!」
ロミは、グッとラネの腕を強引につかみ、その場を離れようとした。
レルは…自分の心の核心を掴まれ、何も言えず、しゃがみこんだ。
…そして、その表情はぐしゃぐしゃに歪んでいた。
「…めん…ごめん…ごめんね…ラネ…」
「レル…」
「私、ホント…サイテー…。ラネの事がずっと好きだった。それは、本当だよ。いつかラネから告白してくれるって勝手に思ってた。…甘えてた…ううん、ずるしてた。ロミの言う通りの最低な奴だよ。その上…ノベの事も…好きだった…。春休みに会って、もう会えないと思ったら…涙が出るくらい…」
「ほら!こいつ最低でしょ!?」
「…うん…最低だな。それが本当なら」
「え?」
ロミがくぎを傾げた。
「俺がいけないんだよ…ずっとレルが『俺から好きだって言ってくれ…』って思ってくれてるって解ってた。そのチャンスがいーっぱいあった、って事も。そうやって甘えてたのは俺の方も同じなんだよ、飛時さん…」
「ラネ君…」
「ちょっと待てよ!!はぁっはぁっはぁっ!!」
そこに驚くほど息を切らし、現れたのは、もうややこしくなるしか仕方ない人物。
ノベ。
「俺は…俺だけは甘えてなんていない!自信を持ってレルが好きだって言える!春休み、レルの涙を見た時から、レルは俺を、俺はレルを、好きになったってな!」
「古井志…」
「ノベ君…」
「ノ…ノベ…」
三者三様の表情がノベの瞳に映りこんだ。
「コンビニの前で小銭転がすとか、マジでサザエさんかよ!って。…思わず笑った。小学校からもてはやされて、それがスッゲーストレスになってって…もう中学の卒業式なんて、あほか!ってくらい下駄箱に手紙が入ってたし、うざくなってた。色んな事…男も嫉妬してきてたしな…。それなのに、サザエさんに会って可愛くて…面白くて…愛おしかった。そんな感情、初めてだったんだ…」
「そう…だよな…それに比べて、俺は何もしなかった…出来なかった」
「ラネ君…」
「飛時、許してやってくれ…レルの事。俺や左川ひだりかわ(ラネ)が悪いんだよ。勝手にお互いレルを好きになって、どっちにも行かせないようにしたのは俺たちなんだよ…」
「…ノベ…ごめん…ごめんね、ラネ…ノベ…ごめん」
「な?飛時、俺たちに免じて、許してやってくれ」
「でも…ちゃんと…ちゃんとしてよ。レル!」
「ちゃ…ちゃんと?」
「どっちが好きなの?ノベ君とラネ君、どっちが本当に好きなの?」
「ラ…ネ…ごめん…私は…」
ずーっと歯切れの悪いレルだったが、しゃがんでいた体をゆっくり起こし、精一杯の想いを乗せて立ち上がった。
「私はノベが好き。泣きたくなるくらい、ノベが好き!」
二人は固く抱き締め合った。
強く、そして強く、もっと強く…。
「ドラマみたい…」
「…だね」
ロミとラネは微笑み合った。
悔しい気持ちをほんの少し、お土産にして。
永い、三角関係のいろは。
それは、やっぱり好きな人同士が結ばれる…。
そう、出来るらしい…。
三角関係のいろは 涼 @m-amiya
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