終幕 僕のアニキ

 時が止まった茶色い世界で、美人姉妹が叫び声をあげる。

「なによこれ! 元に戻ってないじゃない!」

「いやです、いやですわぁ!」


 半ばパニック状態の魔法少女二人(半身マッチョ)に対して、綾小路あやのこうじ仲麻呂なかまろが声をかける。

「恐らく松千代マッチョの力が残ったままなんだよ、この封露照印プロテインにその力を吸収させれば元に戻るはずさ」


 仲麻呂が封露照印プロテインをかざすと、プリンセスとイノセントの体から紫色のオーラが放出され、それに吸い込まれていった。と同時に彼女らの姿ももとの可愛らしい魔法少女に戻ったのだった。


「ああよかった。どうなることかと思ったわ」

「私は生きていけなくなるところでした。きみまろさん、ありがとうございました」

「……僕は仲麻呂なんだけどね」

 もうツッコむのも疲れた、といった様子で仲麻呂は息を吐き、笑顔を作った。


「……もう大丈夫なのか? 敵……松千代マッチョは」

 全身傷だらけ(ん? ポージング対決しかしていないはずなのに?)で、肩で息をしながら、蝶介が尋ねる。仲麻呂はコクリとうなづいて返事をした。

「この封露照印プロテインに全てのエネルギーを吸収させたから大丈夫。これを松千代神社に持って行って封印を解かない限り、彼が復活することはないさ」


 そっか、と蝶介はほっとしたような、少し残念そうな表情をしていた。あのマッチョの呪いは恐ろしいものがあったが、松千代マッチョ成蔵なるぞうの鍛え抜かれた体――たとえ魔法で増強していたとしても――見とれてしまうほど見事なものだった。またいつか、どこかで戦いたい。そう思ったのだった。


☆★☆


「夢野李紗りさ、夢野真弥まや

 改めて綾小路仲麻呂が、まだ変身を解いていないマジカル・プリンセスとマジカル・イノセントの方を見て、深く頭を下げて言った。


「この度は僕のせいでこんなことに巻き込んでしまって、本当に申し訳なかった」

 突然の謝罪に魔法少女二人は驚いた。ついさっきまで「僕の彼女にしてあげよう」なんて言っていたのに……と二人で顔を見合わせた。仲麻呂が続ける。


「楽して筋肉を鍛えて彼女を手に入れようだなんて、そんな考え自体が間違っていたんだ。筋肉は自らを鍛えて手に入れるもの……」


 ん? なんか話が違う方向にいってるぞ? マジカル・プリンセスが眉をしかめる。すると、仲麻呂は傷だらけの蝶介の方を見て、彼に近づいた。そのまま蝶介の手を取ると、固く握手を交わした。


「番所蝶介……いや、番所君。君の筋肉こそ、僕が目指すべき目標だ」

「は?」蝶介が思わず変な声を出す。

「いや、君付けは失礼だな。もしよかったら、君のことをと呼ばせてくれないか。そしてこれからはぜひ一緒にトレーニングを……」


 仲麻呂の「アニキ」という言葉に、瓦礫の上で横になっていた海原秀雄がピクリと反応した。そして先ほどのまでのダメージはどこへやら、仲麻呂と蝶介の間に勢いよく割って入ってきた。


「ちょっとちょっと! アニキのことをアニキと呼んでいいのは、この超天才のボクだけなんだから! 勝手にアニキをアニキなんて呼ぶのはやめてくれよ、綾小路君!」

「いいじゃないか、アニキは君のものではないんだ。アニキはみんなのアニキなんだからさ!」

「ちょっとアニキ! アニキからも何か言ってやってくださいよ!」


 仲麻呂と秀雄の言い合いが、蝶介アニキはちょっとだけ嬉しかった。

 蝶介を仲麻呂と秀雄が取り合う……ああっ、新しい世界BLの扉が開きそうだわっ! エターナルは頬を赤らめてときめき、思わず鼻血がこぼれ出そうになる。


「お姉さま……今度はじゃなくて、が発動したみたいですわ」

 エターナルがニコニコしながら、隣でドン引きしているプリンセスに話しかけた。

「えっと……一件落着ってことでいいのかしら?」


 激しい戦いが繰り広げられた瓦礫だらけの夢見丘高校の校庭(改めて確認するけど、まだ時は止まっているから、あとでちゃんと元に戻るんだよ)で、マッチョの取り合いをする眼鏡マッチョと仲麻呂ッチョ。それを見て興奮するエターナルッチョ、それを一歩引いて見ているするマジカル王国の王女姉妹ッチョなのであった。




 ☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆


 <ここで、魔法少女マジカル☆ドリーマーズ 主題歌が流れる>


 夢を守って! マジカル☆ドリーマーズ 〜Ver.Mマッチョ

 歌:MミオWウルフ


 どんなにつらいときでも 夢は逃げださないから

(蝶介達が筋トレをして辛そうな場面が映し出される)


 あきらめないで そんなときは 助けに行くよ マジカル☆ドリーマーズ

 朝日が眩しい 今日も素敵な一日 始まる気がするよ 

(トレーニングジムに嬉しそうに向かっている三人の漢たちが映っている)

 楽しい出来事が 私たちを待っている

 

 <ミオのラップ>

 筋トレするぜマッチョ! まだまだ追い込めもっと!

 限界超えろマッチョ! 超回復が待ッチョ!

 辛い時こそ筋トレだ! 一本の筋が見えてくるまで

 そしたらほら、「辛」いと言う文字が「幸」せに変わるんだぜ!


 <ラップ終了>


 あと一歩先に広がる未来 勇気の魔法かけてあげるよ

(漢三人がムキムキになってポージングしている画角。勇気の魔法で筋肉がキラキラと輝く)


 どんなに涙流れても 夢は離れないから

(筋トレをしてキツイ、だけど満足だ! と仲麻呂が流す嬉し涙が光り輝く)

 

 忘れないで そんなときは 思い出してね マジカル☆ドリーマーズ

 忘れないで どんなときも 君の味方 マジカル☆ドリーマーズ


 <五人で声を揃えて>

「劇場版 魔法少女マジカル☆ドリーマーズ 〜狙われた姉妹と呪われし筋肉魔法〜」


女性三人「ちょっと! なんか映像がおかしいんだけど!」


 ☆★☆☆★☆☆★☆☆★☆



「あっ、アニキ! 逃げないでくださいよ!」

「アニキって呼ぶのは一人で充分だぜ!」


 走って逃げる蝶介に、後ろから追いかける秀雄と仲麻呂の姿が一枚絵になって……完。

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劇場版 魔法少女マジカル☆ドリーマーズ まめいえ @mameie_clock

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