07 フィナーレ、そして

 射石砲の艦砲射撃により、ジェノヴァはピエトロ・ドーリアという優秀な提督を失った。

 ジェノヴァは急ぎ、援軍を出撃させたが、その艦隊がブロンドロ島に姿を見せたのは、一三八〇年五月十二日である。

 ピエトロは今や亡く、ヴェットール・ピサーニの堅固な包囲により補給を断たれ、カルロ・ゼンの果敢な攻撃により兵力を失い、ジェノヴァはもはや、キオッジャを保つ力を全て失い……。


 六月二十四日、キオッジャのジェノヴァ軍は降伏した。



 時は流れ、一四〇〇年。

 キオッジャは今日も晴朗。

 カルロは、手にしたアンフォラを直接口に持って行き、葡萄酒を飲んだ。

 息を吐き、アンフォラを海に傾ける。

「手向けだ」

 キオッジャの戦いのすぐあと、ヴェットールは死んだ。

 祖国を守ったから、もう満足だとばかりに。

 そしてアンドレア・コンタリーニも同様である。

「ひとりだけ生き残ってしまったな……だが」

 アンフォラを放った。

 アンフォラは波間を漂い、やがて海中へと沈んでいった。

「…………」

 カルロは踵を返した。

 キオッジャの戦いの後、ジェノヴァは勢いを失った。

 だがまだその野望は已まず。

 カルロはまた、ヴェネツィア艦隊を率い、アドリア海を征く。


 ――放埓無頼であったカルロが、ここまで国に尽くしたのは、ヴェットール・ピサーニという、不世出の提督と艦列を並べた、鮮烈な記憶によるものなのかもしれない。



【了】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

晴朗、きわまる ~キオッジャ戦記~ 四谷軒 @gyro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ