第51話 エピローグ2

 今私は、闘技場のような所で練習を見ている。一方にとっては、真剣勝負かな?


「本当によろしいので?」


 審判の者が心配している。そんなに心配も要らないと思うんだけど。


「始めろ、命令だ」


 審判は、諦めて手を上げた。


「始め!」


「行くぞ、南宮适なんきゅうかつ将軍!」


「ひい! 姫発きはつ様、手加減してくださいよ!?」


 う~む。姫発は、上半身裸と素手であり、南宮适将軍は重装備の騎兵なのだが……。姫発の方が、戦意が高い。やる気が違う。


「ヘーキチさん。将軍が可哀そうでっせ……」


 大鮫魚が、抗議して来る。

 でも、そうかな~。十年に及ぶ修行で、姫発もゴリマッチョになったとは思うが、所詮人の域だ。

 武器防具もなければ、将軍でも勝負になると思うんだが。


 要するに、今私は、壇上より王様やっている姫発の訓練を見ていた。

 周囲には、万を超す兵士達。民衆もいる。屋根や木に登って見ている観客もいるほどだ。円形闘技場と言ったところかな。誰がこんなモノ作ったのか……。

 ここで、将軍が動いた。

 騎馬で突進して、槍で姫発を突いて行った。

 姫発は、右手で騎馬を止めて、左手で槍を掴む。

 騎馬は……、首が折れたようだ。壁に衝突した感じで首から前が潰れていた。

 槍を掴まれた将軍が浮き上がる……。片手で、重装備の将軍を振り回すと、大歓声が上がった。

 そして、姫発が、将軍を地面に叩きつけた。


 ――グチャ


「勝負あり、そこまで! 勝者、姫発王!」


 地響きのような大歓声が上がる。


「……将軍と馬を連れて来てくれ。修復しておく」


「は~。何度目っすか? もう、将軍の心は折れてまっせ? ボキボキっすよ?」


 だけど彼が、この西岐で一番の将軍なんだよな~。

 ここで、潰れた馬と、平らになった将軍が運ばれて来た。急いで手当てしないと本当に逝ってしまう。

 私は、"薬丹"を使った。

 馬と将軍が、瞬時に回復する。


「……あああ。うあああぁぁぁ~~~~~~~~~~!」


 将軍が、絶叫を上げて走って行った。その後を、馬が追う。


「なんだったのかな?」


「痛かったんでしょうね? 深淵まで辿り着けたんじゃないっすか?」


 ふむ。これからも南宮适将軍には、期待しよう。



「次だ! 戦車を出せ!」


 戦車と言っても、チャリオットだ。3人が乗っている。騎手と射手と槍兵だな。

 砲撃はないですよ?


「始め!」


 ――ドパン、グチャ


 一瞬で、チャリオットが上空に吹き飛んだ。

 アッパーカットの衝撃波で、馬を吹き飛ばすとか……。姫発は思ったよりは強くなっているかな。思い出せないが、なんかの必殺技に似ているかもしれない。


「もう、人の域からはみ出てまっせ?」


 観客のボルテージも最高潮だ。

 もう、耳を塞ぎたいくらいだ。

 それと私は、"薬丹"を使った。3人と馬が、お礼を言って下がって行った。



「次だ! 獲物を出せ!!」


「……本当に、よろしいので?」


「構わん! 檻から出せ!」


 檻から虎が、放たれる。

 審判は、逃げ出して行った。


「ふうぅおおぉ~~~」


「ガオー!」


 二匹の獣が、雄叫びを上げる。

 そして、組み合った。

 本来であれば、虎の爪で人は体に穴を空け、切り裂かれる。だが、姫発は虎の爪を折り前脚を逆方向に捩じり上げた。

 虎の咆哮というか、絶叫が木霊する。


「ふむ。膂力はまあまあ……。ギリギリ合格点……かな~」


「超人でもあんな真似は、できやせんぜ?」


 その後、虎の牙を躱した姫発の連打が始まった。


「あれは……、デン〇シーロール? 誰かの入知恵か?」


「いや~、ただの連打っすな~」


「む? 最後にコー○スクリュー・ブロー?」


「……空手の正拳突きっすな。三千年後の話っすけど、ネタが古いっす」


 虎は……、肉塊に変わった。

 その虎を、引きずりながら私の前まで、姫発が歩いて来た。

 手を組んで一礼し、敬意を示してくれる。


師叔スース。この十年の特訓の成果です。いかかだったでしょうか……」


「うむ、王は虎を狩り続けなければならない。武威というか有能さを示してなんぼだ。これからも訓練を怠るなよ」


「はっ!」


 姫発は、あの時出会った老人……、姫昌きしょうの子だ。

 頼まれたので、私なりの帝王学を授けてみた。

 今日は、そのお披露目会でもある。

 こんな日は、西岐の民の希望で、月一回は行うようになっていた。

 西岐にいる様々な将軍と手合わせして、無敗だった。誰もが逃げ出して、最終的に南宮适将軍のみが引き受けることになっている。それと、今日は虎だったか。前回は、槍ありで熊だったな~。瞬殺だったけど。


「娯楽っすな~。コロシアムさながらでっせ~」


 娯楽か~。まあ、いい見世物だよな。王様が、野生生物と戦うのだし。短時間で終わっては、つまんないよな。無双もいいけど、演出としてちょっとだけビンチな場面も欲しいかな~。

 虎の回復は行わない。商人が買い取って行くからだ。


「ヘーキチ師叔スース……。天界より使者が来ました。そろそろ、東進を開始したいと思います」


 もう、そんな時期か。


「うむ。行ってこい。姫発なら、万の軍勢や仙人でさえも退けられるだろう」


「はっ!」


 姫発が立ち上がり、軍勢に合図を行う。

 耳をつんざく大歓声が、止まらない。

 西岐も士気が高いな~。

 こうして、姫発の東進が始まった。軍の先頭を駆ける王様。カッコいいかもしれない。


「殷の太師は、元気かな~」


「一緒に行かないんすか?」


「姫発が殷を倒さなければ、ならんのだろう? その為に、特訓を行ったのだ。ここで、私がついて行ったら、後世でなにを言われるか……」


 姫昌と話し合い、姫発を鍛えたのだが……、一般人レベルだった。ミルキーみたいな逸材ではなかったのだ。でも、これで大丈夫だと思う。


「だから、人の域を超えてまっせ……」


「金鰲島とか出て来たら、崑崙山が対応するだろうしな~」


「金鰲島は、シルフィーさんが壊滅させて、今だ復興してませんぜ?」


 やっぱり、私は西岐でお留守番をしていよう。


「申公豹は、どうするんすか~?」


「何度か邪魔しに来て、その度にシルフィーに塵にされていただろう? どっかで生きていそうだけど、トラウマを抱えて、震えているさ。天界だって、そう何度も生き返らせる保証もないんだし。用なしもしくは、命数が尽きた時点で終わりだな~」


 あの、弟弟子も懲りたのか、最近は姿を見せなくなった。生きているのかな?


「あと、障害になりそうなのは……」


「殷の五十万の軍隊っすな~」


「姫発一人で十分だな~」


「どんな人材を育ててるんすか~」


「虎を倒す王だ。これからの歴史でいくらでも現れる、普通の王様だよ」


「姫発さんは、イケメンっすけど、目がイっちゃってますからな~。あれを『普通』に入れるのは間違ってまっせ~」


 こうして、西岐を出発する軍隊を見送った。

 さて、また暇になってしまったな。


「……また、旅に出ませんか? 西の方で困った妖怪がいまして、応援要請っす。ミルキーさんも会いたがっていますよ~」


 ほう?


「行くか。成長したミルキーか……、十数年ぶりに会ってみたい!」


 私は、打神鞭を腰に差した。

 そして、大鮫魚に乗り込む。


「かなり遠回りしたが、旅の再開だ!」


「ふ~ん。ねえ、ヘーキチ……。ミルキーって誰? 昔、ヘーキチの腕にしがみついてた獣人の娘?」


 後ろを振り返る。

 ……狂気の天女がいた!


「大鮫魚、全速力だ! 逃げろ!」


「待ちなさいよ! 今日は宝貝パオペイを持って来てないから!」


「やれやれっすな~」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

七十二歳新米冒険者~仙人になれないと言われリストラされたけど、下界では結構無敵です~ 信仙夜祭 @tomi1070

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ