第50話 エピローグ

「うう……、ヘーキチ。ヘーキチ……」


 シルフィーは、地上に降りて来て項垂れていた。精魂尽き果てた感じだ。髪も白くなっている。力を使い果たしたのだろう。

 私は、〈地行術〉を発動させ、そ~と背後に近寄る……。〈隠密〉を発動させて気配を消しながら……。


「勝負あったな! シルフィー!」


「えっ!?」


 『打神鞭』最大出力!

 山をも砕く一撃を、シルフィーに浴びせた。

 地面の溶岩が吹き飛んで行く。地面が割れて、断層のような地割れが、数キロメートル作られた。

 頭をカチ割られたシルフィーが地面に倒れる。切り裂けなかったが、気を失ったようだ。天界の防具は、凄いんだな。


「ふう……。強敵だったな。いや、狂的か」


「鬼畜っすな……。鬼でもそんな真似はしませんぜ? 今更、見損ないはしませんが、畜生以下っすな~」


 大鮫魚だいこうぎょが、訳の分からないことを言っている。まあ、何時ものことか。

 周囲を見渡す……。


「一面の焼け野原だな。山や谷が埋まってしまったか」


 私は噴火を引き起こしたが、その数倍の土地が燃えてしまった。

 噴石も溶けて、もはや見渡す限りの平地だ。地形をここまで変えていいのだろうか?


「ここは、いい都市になりそうっすな~。この土地の未来が楽しみっす」


 そうなのか? それならば、シルフィーを称える石碑でも建てるか。

 倒れているシルフィーを見る。

 意識がないようだ。血だまりもできている。

 私は、『打神鞭』を強く握った。私も余力がない、今立たれたら負けるかもしれない……。


「そこまでにしてください!」


 上空を見る。


「久々だな。天界の使者……」



 私は、シルフィーを撃退した。したのだ。後は、天界に任せよう。

 鎖で縛り上げられたシルフィーが天界に連行されて行く。今日は、監獄車まで持ち出して来たのか。ようやく天界も、シルフィーの危険度を理解したのかもしれない。


 申公豹は、崑崙山に引き渡す。塵を天界の使者が集めていた。あれも術だな。

 だが申公豹は、役目があるので拘束はできないとのこと。面倒な話だ。


「しかし、なんでシルフィーが下界に降りて来たのだ?」


「え~と……。話し合いが持たれましてね。このままじゃ、革命が起こせないと……」


「それで、あんな危ない奴を解き放ったのか? まあ、下界の命数は変わるだろうが。それも、滅茶苦茶なほど」


 天界の使者は、冷汗が止まらないらしい。

 シルフィーを下界に解き放って、未来にどれだけの影響が出てしまうのか……。まあ、歴史の修正は、天界の仕事だ。


「それを知った申公豹が、肩入れしましてね。ここまで滅茶苦茶にするとは思いませんでした……。金鰲島は、壊滅状態です」


 ため息しか出ないんだが。

 最悪に近い結果ではないのか? もう、地形とか戻らないぞ?

 革命とか言っていたが、もう修復不可能ではないだろうか?


「ふぅ~。当分はシルフィーを閉じめておいてくれ。修行の旅の邪魔でしかない」


「ヘーキチ殿次第ですよ? 次は、一年後か、十年後か……。場合により、天界の秘宝の貸し出しも厭わないそうです」


「なんだと~う?」


 その後、話を聞くことにした。

 シルフィーの再来襲など、耐えきれる自信がなかったからだ。


「……私に、人に会えと?」


「はい。それを拒む限り、天界は下界に干渉して来ます。最悪、全部破壊して、三皇五帝の時代まで遡るそうです」


 ため息しか出ない。

 そこまでの重要人物なのか。


「分かった。鍛え上げてやろう。目標は、シルフィークラスでいいな? 強さの指標とするために、下界に降ろしたのだろう?」


「……老い先短い老人ですが? それと、男性です」


 ため息しか出ないって。

 特訓ではないのか。修行バカの私に、そのような老人になにを教えろと言うのか。


「仙人界で鍛えれば、いいだろうに。私では、なにも教えられそうにないぞ?」


「だから、普通の人ですよ? その子供が、王になり新王朝を築かないと、歴史が進まないんです」


「……私に何をしろと?」


「導いて欲しいんですよ。難しいことは言いません。傍にいて、トラブルを解決してくれるだけで結構です。ヘーキチ殿は、それだけで歴史を動かしてくれるので」


 結局は、師匠の思惑通りか。


「もうそろそろ、従いましょうって~」


「大鮫魚。お前も来てくれるか?」


「もちろんでさ~。俺っちは、ヘーキチさんの騎獣でっせ!」





 私は、精神統一のため、釣りを行うことにした。

 川に糸を垂らす。


 ――ピチャン



「釣り過ぎないで下さいよ~」


 背後には、山のような川魚が積み上がってる。

 後で、売り払って生活費に変える予定だ。西岐で高値で売れることが分かったのだ。一財産築こう。


「そのためには、一日で売り払わないとな……。遁術で幾つの街を回れるか……。値下がりに気付かれる前に……。いや、日持ちしないから……、ぶつぶつ」


「鬼畜だけじゃなく、外道の称号も付けましょか……」


 それと、動き過ぎて腹が減ったので、焚火で焼き魚を用意する。

 とりあえず、百匹からだな。木の枝を差して串焼きだ。



 ここで、一人の老人が現れた。足音を消しつつ、私の背後に立つ……。

 私は、後ろを振り向いた。


「……釣れますかな?」


「ああ、大漁だ。喰うか? 焼くぞ?」


「……ご相伴に預かりましょう。酒も持って来ました」


 やれやれ、天界の思惑通りになってしまったな。

 遠回りしたのかもしれないが、出会ってしまった。間違いなく、この人物だろう。

 私は……、この者の補佐をするのか。


「さて、なにから始めるか……。まずは、話を聞こうか」


 老人は嬉しそうに、私の隣に座った。

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