第49話 最終決戦

 やはり、ラスボスはシルフィーだった……、とか言いたい。

 最悪としか言いようがない。


「シルフィー。……悪いことは言わない、天界へ帰れ。いや、帰ってください。もう、色々と滅茶苦茶なんです」


「嫌よ……」


 シルフィーの魔力が膨れ上がる。

 大気が一気に沸騰したのが分かった。

 近くの川など、蒸気が上がり、魚が浮いているぞ。立派な環境破壊だ。


「これが、命数だというのか……。シルフィーは、私と対峙するためにこの世界に来たと言うことなのか……」


 シルフィーの表情が、更に険しくなる。


「……ヘーキチさん。謝りましょうよ~」


「なにをだ?」


 ――ゴウ


 うお?

 周囲の温度が、更に上昇する。

 この温度は、血液が沸騰するぞ。明らかに溶岩以上の温度だ。

 だが、私は『杏黄旗』で炎の温度を防ぐ。


「うふふ。ねぇ……、ヘーキチ?」


「ぐ……、なんだ?」


 言葉を発するだけで、肺が焼けそうだ。

 人のいない土地で良かった。場所によっては、どれだけの被害が出ていたことか……。

 あ……。シルフィーの匂いを嗅ぎ付けた妖怪が、燃えているな~。それもかなりの数が。シルフィーを食べるつもりだったのかな? 匂いに引き寄せられた?

 灯りに飛び込む蝶みたいだな~。

 ……食べさせてもいいかもしれない。拘束して、差し出す?

 ……まあ、やらないけど。


「一緒に天界に行きましょうよ~。修行の相手になってあげるから~。わたしが頼めば、仙人骨も宝貝パオペイも貰えるわよ~」


 ――グラ


「ヘーキチさん。揺らいだらあきまへんで!」


「はっ!?」


 今私は、意識が一瞬飛んでいなかったか?

 目の前を見る。

 ……凶悪な悪魔の笑みを浮かべる天女がいる。


「そうか……。紂王もこんな感じなのだな。これに抗うのには、相当な精神力が必要だ」


「全然違いまっせ?」


 気が付くと、辺り一面溶岩となっていた。

 まるで、活火山の噴火口だ。

 先ほど私が作った、カルデラ噴火の火口も飲み込まれて、跡形もなくなっている。

 『杏黄旗』がなければ、私でも危なかったかもしれない。


 私は、『打神鞭』を抜いた。


「うふふ。あはは……」


 私の行動を見たシルフィーが、笑い出した。

 ニーチェよ見ているか? 目の前に深淵の先に進んだ怪物がいるぞ……、とか言いたい。

 まあ、私は怪物にはならないけど。


「シルフィー! 大人しく天界へ帰れ!」


 私は、『打神鞭』を振るった。先制攻撃だ。奇襲にはならないが。

 シルフィーは、炎と溶岩による攻撃みたいだ。

 放出・操作系だな。それと、剣もある。近接戦闘も危ないかもしれない。

 くっ……。隙がないじゃないか。


 激しい攻防戦が繰り広げられる。

 シルフィーの炎は、私には届かないが、私の鞭も防がれている。

 互いに手詰まりだ。


「そうなると、スタミナ勝負! いや、霊力・気力・体力の勝負だ!」


 私は、防御に徹しつつ、更に猛攻を仕掛けた。





「「はあはぁ……」」


 何時間続いたのかも分からない、シルフィーとの攻防。

 互いに少しずつ削り合うが、決定打がない。

 数度の朝日を見た気がするが、回数を数える余裕はなかった。


 シルフィーは、体力と魔力が尽きて来たらしい。

 私は、先ほどマイクロスリープをとったので平気だ。


「その数秒間を稼いだ、俺っちを褒め称えて欲しいっすわ~」


「もちろんだ。助かっているぞ」


 大鮫魚には、感謝している。頼もしいバディーだ。流石、私が騎獣に選んだだけある。

 ここで、再度のシルフィーの攻撃が来た。

 溶岩を、竜の形状にして私を襲わせて来る。

 その竜を躱し、私は飛び上がった。シルフィーに近づくが、炎の壁が邪魔をして来る。シルフィーは、飛んでいるのだ。私は、重力に捕らわれて落ちるしかない。


「一か八か、俺っちに乗りまっか?」


「一瞬で黒焦げだろうに。水筒の中で大人しくしていろ!」


 こんなバカげた戦いで、騎獣を失いたくない。

 結構長い付き合いでもあるのだ。


「むっ!?」


 シルフィーが、溶岩を巻き上げた?


「そろそろ終わりにしましょう。ヘーキチ……」


 ふっ……。底が見えたな、シルフィー。

 最後の攻撃か。

 いいだろう、受けて立とう!

 そう思ったのだが……。


「360度、全方位の溶岩の檻か……」


「あ~。逃げらんないっすね~」


 私は、避けられなかったので、溶岩をまともに浴びることになった……。





「……」


 息を止める。今私は、〈火遁〉の術を発動させていた。それと、『杏黄旗』は、シルフィーの炎を防ぐ性能を示してくれた。


「溶岩の中でも移動できるんすか? いい術っすな~」


「ふっ。〈光遁〉の術以外は、使用回数の制限がない。遁術は、移動のみとバカにする奴もいるが、発想次第で窮地を脱することもあるのだ」


 できの悪い仙人ほど、術の特訓を怠り、宝貝パオペイの練習をしたがる。

 私は、そいつらをボコって来たのだ。あの時の小僧などいい例だ。


「その自慢の術で、溶岩をなんとかしたらいいんじゃないんすか~?」


「炎の操作権は、シルフィーが持っている。奪うには、それを超える霊力が必要だ」


 炎に対する造詣に関しては、シルフィーに敵わない。


「その炎が消えかかってまっせ?」


 ほう?

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