第48話 復讐のシルフィー2

「待て、ヘーキチ!」


 むっ……。シルフィーと申公豹だったか。

 最悪の組み合わせだな。

 しかし、二人共捕まっていたのではないのか? 何でここに来れる?


「申公豹さん。ありがとう……」


「ヘーキチ。貴様はここまでだ! 覚悟しろ! そして、天界と仙人界の思惑も俺が止めてやる!」


 申公豹が、吠える。


 ――ボ……


 次の瞬間に、申公豹が燃えた……。

 絶叫を木霊する暇もなく、塵になる申公豹……。

 核崩壊が起きていないか? 水素は1億℃以上で核融合が起きるとか聞いたことがあるが、他の元素はどうなんだ? つうか、シルフィーは、何処まで温度を上げられるんだ?


「道案内、ありがとうね~。申公豹さん~」


 申公豹は、置いておこう。最悪、崑崙山が生き返らせるはずだ。確か、そんな霊薬もあった気がしないでもない。

 それよりも、シルフィーだ。

 三大仙人よりも強いかもしれない……。そんなのが、私の命を狙って来ている。

 あれ? 結構、死地に立っている?


「結構じゃないですよ~。下界でここ以上に危ない場所なんて、ないじゃないっすか~」


 今は余裕がない。大鮫魚は置いておこう……。考えたくない。


「凄い火力だな。人を一瞬で消し炭か……」


 一応、シルフィーに賞賛を送る。

 この間に、私は思考を加速させていた。どうやってこの場を収めようか……。逃走経路……。逃げらんねぇよ。


「まあ? 宝貝パオペイが、あるんだし~?」


 冷汗が止まらない。本当に、『杏黄旗』は通用するのだろうか?


「もう逃げられませんぜ? 逃げたら、下界が火の海っす。歴史が数千年巻き戻りまっせ。そんなことしたら、天界に捕まって、妖怪に転生させられそうっすな~」


 うっ……。だが、〈光遁〉の術でも振り切れなかったのだ。

 逃げる選択肢はないな。

 期待としては、天界の使者かな~。百人くらい来ないだろうか……。

 ここは、幸運が舞い降りて来る場面だろうに。


「来ないっすね~。天界はシルフィーさんの鬱憤を晴らすのが、一番だと気が付きましたから~」


 今度、天界に殴り込みに行こう。そうしよう。

 一番偉い奴に説教しよう。

 大体、シルフィーに宝貝パオペイを渡すからこうなる!

 もっと厳重に管理すべきだろうに。

 仙人の秘密兵器を、ポンポン貸すんじゃない。

 特に秘宝とかだ。『定海珠てかいじゅ』とか渡してないだろうな?


「きょ、今日は、どんな宝貝パオペイを持って来たのだ?」


 話題を逸らしてみる。


「う~ん、金鰲島から借りて来たの。『万里起煙雲ばんりきえんうん』、『万鴉壺ばんあこ』、『五竜輪ごりゅうりん』、『飛煙剣ひえんけん』かな~。炎を操る仙人に借りて来たのよ♪」


 やべえ……。

 洞府の仙人を殺して来たんじゃないか?


「それと、『定海珠てかいじゅ』を借りれなかったのが、残念だったな~。『金蛟剪きんこうせん』や『混元金斗こんげんきんと』も欲しかったんだけど~、集団に囲まれて……。あの4人は強かったな~。あ、三大仙人も出て来たし~」


 良かった。危惧していた秘宝はなしか。だが……。


「そ、それを借りたと言えるのか? 強盗じゃないのか?」


「ヘーキチさんが、言えることっすか?」


 私は手合わせのために、金鰲島に行こうとしたのだぞ?

 それに、私は宝貝パオペイを使えない。


「はあ……、はぁ……」


 呼吸が荒い。自分でも分かる。

 死地に立っている気がする。シルフィーの背後から、冥界の風が吹いている気がする。死の風が、私の生命力を奪って行く感覚がする。


「そうだ! 金鰲島の援軍が来るかもしれない!」


「来ないわよ? 協定を結んで、わたしの目的を達成したら、宝貝パオペイを返す約束をしたから……」


 逃げ道が、どんどん塞がれる。


「戦うしかないっすな~」


 ……それしかないのか。一時期とは言え、パーティーを組んだ相手だというのに。

 どうしても、躊躇ってしまう。


「嘘はよしましょう? バレバレっすよ?」


 ……大鮫魚。いつもながら思考を読むなよ。


「考えは纏まった?」


「もうちょっと、待ってくれ」


 残るのは、崑崙山と西方の賢人だな~。

 助けに来てくれないかな~。


「一番ない選択肢っすな。ヘーキチさんのお師匠様は、お腹を抱えながら、笑って見ていまっせ。西方の賢人は、この事態を避けたかった訳ですし~」


 あのクソ爺。後で、折檻してやる。

 誰のせいでこうなったと思っているんだ。

 それと、西方の賢人達! 未来を教えろよ! そうすれば、シルフィーを渡したのに!


「くっ! 崑崙山からの使者だった、小僧とイケメンは?」


「遠くで、見学してまっせ。来る気配は……、全然ないっす」


 ダメか。援軍は来ない。詰んだかな……。


「戦って勝ちましょうよ~。それが新しい命数っす」


 それしかないか……。そもそも、逃走など私に似合わない。

 私は、『打神鞭』を強く握った。


「諦められた? もう、援軍は期待できないって」


「……根回しが行き届いていて、感心したぞ。シルフィー」


 とても怖い笑みを浮かべるシルフィー……。


「天界最狂か……。仙人界の小僧とも手合わせしたが、レベルが違うな。狂気度も桁違いだ。数値化できれば、確実にカンストだろう〈ステータス:混乱度〉か〈ステータス:バーサーカー度〉とかないものか。SAN値?」


「まるで、ラスボスっすな。まあ、まだ本格的な戦争も始まってないんすが」


 おい、大鮫魚。ラスボスの使い方が間違っているぞ。

 シルフィーを倒したら、世界が平和になるわけじゃないんだ。





 今回の被害者……羅宣、三仙姑、趙公明、通天教主

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