第47話 修行3
マグマの中を歩いて進む。
「……暑くはないのだな。自然環境なんてこんなもんか」
「『杏黄旗』がなかったら、熱いんでしょうね~」
「ふむ……。発動を止めてみるか」
「俺っちだけ、焼け死んでしまうやないですかい?」
ああ、それもそうだな。
大鮫魚は、暑さに弱いのだった。
「しかし、シルフィーの温度に比べると、比較にならないな。これでは、評価にならないぞ」
「マジ切れした天女と、自然界を比較してもね~。炎を操る仙人に頼った方が良かったかもしれませんね~」
「シルフィー以上の炎を操る仙人は、何処にいるんだ?」
「……俺っちは、聞いたことがないっす。つうか歴史上実在しないと思いやす」
後世に言う、『火の七日間』はシルフィーが引き起こすのかもしれないな……。
他の地域の話なので、もう起きているのか、これから起きるのかは分からないが。
私は、マグマのシャワーから出た。
「ふう。少し温度が低かったが、炎耐性があることは分かった。次は、毒に行ってみるか。後は……、何の耐性があるんだ? 呪いか? 病気か?」
「いや、これどうすんすか? 噴火が止まらないっすよ?」
マグマが噴き出していることか?
「自然現象なのだ。そのうち止まるだろう? 『雨琵琶』で雨を降らせている訳でもないんだし」
「……無責任すな~」
う~む。私に噴火を止めろということか? どうせそのうち噴火していたのに?
それに、ここは無人の土地だ。
「無人すけど、動植物はいまっせ?」
周囲を見渡す。犬やら鹿やら熊が、逃げて行っている。
「少し巻き込んだか?」
「いいえ。ヘーキチさんの霊力に当てられて、噴火前から逃げていたので、被害はないっす」
ふむ。〈隠密〉を発動していなくて良かったな。
「そうなると、放置でもいいのではないか? どうせ噴火は、数日間だろう?」
「いやいや。後を濁さずに去りましょうよ」
……面倒だな。
私は、再度『打神鞭』を振るった。大地に向けて。
直後に、大噴火が起きた……。
「いや~、一回だけマグマが、雲を切り裂きましたね~」
その棒読みを止めろ、大鮫魚。
「希望通り、短時間で済ませたのだぞ? 問題あったか?」
「希望としては、地面を閉じて欲しかったんっすけどね~」
そうならそうと言え。
一面、焼け野原だぞ。いや、大地はマグマが固まり元の地形の原型もない。陥没も起こっている。カルデラとか言う地形だな。
それと、噴石が多いな。一面埋まっている。
「さて、次だ」
「後を濁しまくって、移動っすか……」
「この地は、来年の今頃には、緑溢れる土地となっているだろう。動植物も感謝するさ」
「そうなるといいっすな~」
大鮫魚には、自然の再生能力が分からないのだな。本来は水棲なのだし。
自然科学をレクチャーしてやろう。
「まず、マグマが冷えて固まる。固まったマグマが破砕された岩石は水はけも良いのですぐに肥沃な土壌となるのだ。そこで生態系の再生が始まる。火山の噴火した後は荒れ地と思いがちだが、世界的にみると農耕地に必要な土壌は岩石が風化した物質と植物の残差による有機物が混合したものだ。岩石が風化する過程において植物に必要なリンやミネラルは少しずつ失われて行くが、それを補給してくれるのが火山性噴出物なのだ。いいか、人間はこの自然現象を数千年かけて解析して、農業革命を起こすことになるんだぞ」
「なんすか、その学術的な見解を丸暗記したような回答は?」
ふぅ~。大鮫魚には理解できないか。かみ砕いて教えたつもりなのだが。
決して、w○kiからの引用ではない。
マグマは、まだ流れている。最終的にはカルデラ噴火みたいに、大地の一部分が窪んで、そこにマグマが流れているのだ。これで広がる事もない。
マグマも広がらないし、噴火も収まった。後なにをしろと言うのか。
まあ、そのうち大地も冷えるだろう。
「むっ?」
マグマより、なにかが出て来た?
「何してくれんねん、ワレ~!」
妖怪だな~。
「……大鮫魚。親戚か? 訛りが近いんだが」
「俺っちは、あんなに口悪くないっすよ?」
「俺は、
――バチン
なんか面倒そうだったので、『打神鞭』で打ち据える。
そしたら、悶絶している。
『打神鞭』は、一般人には効果がない。そうなると……。
「ふむ……。妖怪なのだな」
「マグマから現れたんでっせ? 妖怪でっしゃろ?」
それもそうか。
さらに、『打神鞭』を振るう。
「ま、待て……。待ってくれ……。話し合いでだな……」
私は、手を止めない。軽く数十発、撃ち込んでみた。
最終的に、妖怪はマグマに沈んで行った。
「……逃げられたか」
「あれを逃げたと言いまっか?」
興味がない。明日には忘れているだろう。だが、『打神鞭』を使わせてくれたのはありがたかったな。
おかげで、手加減が覚えられた。もう、火山を爆発させる事もないだろう。
「さて、修行の旅を続けるか……。この際、近そうな北に行ってみるのもいいか。人は住んでいそうだし」
「手合わせできる相手がいるかどうか、わかりやせんぜ~」
ここでまた、私の〈索敵〉に何かが引っかかった。
かなりの速度で飛んでいる。そして、私に向かって来ていた。
「なんだ、この禍々しい霊力は……」
◇
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