鬼の形相にやさしき心、清涼な風にも似て。

江戸……を遠く離れた町を舞台にした時代劇。いかめしい顔と見上げる巨躯、この浪人はいったい何者? 折しも町では忌まわしい事件が続発し、通り悪魔のしわざとさえささやかれていた――鬼のようなとたとえられつつ、優しい目をしているに違いない謎の浪人・源十郎は、この事件と関わることになるのだが……。
時代劇には欠かせない、活写される風景や風情が、源十郎のさわやかな心ざまをも表しているようで、読後にはあたたかさと清涼感が。また、若侍かなめをはじめとする、一部の登場人物たちの存在が、幽玄な雰囲気をも深めていて、幻想的でもある。一方で痛快な立ち回りもあり、時代劇の醍醐味もしっかりと。……読了後、あたたかい煎茶とともに余韻をゆったりかみしめました。

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