江戸……を遠く離れた町を舞台にした時代劇。いかめしい顔と見上げる巨躯、この浪人はいったい何者? 折しも町では忌まわしい事件が続発し、通り悪魔のしわざとさえささやかれていた――鬼のようなとたとえられつつ、優しい目をしているに違いない謎の浪人・源十郎は、この事件と関わることになるのだが……。
時代劇には欠かせない、活写される風景や風情が、源十郎のさわやかな心ざまをも表しているようで、読後にはあたたかさと清涼感が。また、若侍かなめをはじめとする、一部の登場人物たちの存在が、幽玄な雰囲気をも深めていて、幻想的でもある。一方で痛快な立ち回りもあり、時代劇の醍醐味もしっかりと。……読了後、あたたかい煎茶とともに余韻をゆったりかみしめました。
話はいずことも知れぬ港町、鬼とまで渾名される大男の坂田 源十郎と、美貌の若侍・鷹山 要が安からぬ風で酒を酌み交わせば、酒の肴は近頃市中を騒がす通り悪魔の件。
渋々調査を引き受けた源十郎の前に現れたるは鬼か悪魔か、果たして――
鬼のような恐ろしい風貌だが、心根が優しく子供に滅法甘い浪人・源十郎が切った張ったの立ち回りで悪人を懲らしめる、勧善懲悪のチャンバラ時代劇です。
文章も作品に合わせて調えられており、実に風情を感じられる良い作品でした。
いかにもな悪人を見出し、集団を相手に乗り込み大立ち回り、そして最後に秘密も明かしつつスカッと成敗する、そんな時代劇好きな人は是非読んでみてください。