読まれるべき物語　堪能されるべき文学

　これは読まれるべき物語。堪能されるべき文学。
　文学に志す者、或いは、闇の深さを知る者、癒されることのない渇きに苛まれる者は、この表紙を開くことを躊躇してはならない。

例えば……

　闇を閉ざす雨。
　雨を冒して進む馬車、上下に揺れる馬の首と荒い息。
　御者台に並ぶ二人。

　降り止まぬ雨。
　ただ、雨では到底、その者や汝の渇きを癒すことはかなわぬ。

　どうやら万聖節が近付いているらしい。
　諸聖人の顕し賜うた奇跡？

　否々、数多の死者を思い、祝おう。
　この世に生きる者より、すでに向う側に渡った者たちの数の方が、遥かに、遥かに多いのだ。

　何となれば、諸聖人とて、すでに死者なのである。

　白皙にて硬質なる死者の指がめくった頁を、さあ、今こそめくれ。