第8話 襲撃のムキデレラ

 自分の馬を使えばあっという間に城へと着くので決勝戦までには間に合うでしょう。


 早速馬を連れてきて跨がります。


「そうだ、お姉さん。一つ大事なことを忘れていた」


 男は真剣な顔でムキデレラに忠告します。


「夜更かしは筋肉に悪い。どんなに楽しくても12時には帰るようにした方がいい」

「ええ、そうするわ!」


 ハイヤ!と、ムキデレラは馬を走らせました。

 小さい頃から馬に乗っていたムキデレラはどんなにとばしても怖くありません。馬もムキデレラと一緒になって鍛えていたので、体重が増えたムキデレラを乗せてたってグングンとスピードを上げていきます。


 すぐに見えてきたお城にムキデレラは心を踊らせました。

 一体どんな攻敵手ライバルがいるのでしょうか。

 私、ワクワクしてまいりました!!!







 所変わってお城では、期待に胸を弾ませては落胆する王様と、そんな王様の心境なんか糞喰らえ状態で淡々と挨拶をこなす王子がおりました。

 今日は舞踏会という名の王子様の好い人探しの場であることは王子も重々承知ですから、一応集まってきた女子達に目を滑らせはします。

 ですが、この王子はロマンチストでマニアックでございました。

 今もまた一人、聞いたことのある家門の令嬢がお手本のような素敵なご挨拶をされたので、王子もお手本どうりに挨拶を返しました。


 機械的な動作が続く舞踏会に王子はすでに飽きてきておりまして、アクビを噛み殺します。


 王子は思いました。


 何故みな一応に無いのだと。

 胸のことではありません。見事な巨峰もおりました。

 お尻のことでもありません。見事な豊作もおりました。


 王子の言う“無い”はズバリ


 『 筋肉 』


 の事でした。


 そう、王子は筋肉が大好きでした。

 自身があまり筋肉が付きにくい体質なので、筋肉に憧れを抱いた結果、とんでもない筋肉フェチになったのでした。

 そんな王子の趣向なと知らない麗しの乙女は、出来るだけ細く見せようと腰を引き絞り、壮絶なダイエットをしておりました。

 これではどう頑張ったって王子の目に留まるはずがありません。


 また一人淡々と挨拶を返されて乙女が悲しく去っていきます。


 去っていった者の中にはムキデレラの姉達もおりましたが、王子はそんなこと全く知りません。

 早く終わらないかなと思いながら思考放棄をしていると、突然天井近くの窓から筒のようなものが降ってきました。


 なんだとその筒を見ていたら、地面にぶつかった瞬間、その筒から大量の白い煙が撒き散らされました。

「敵襲!!」と近衛兵が叫び腰の剣に手を伸ばした瞬間、首もとに刃を宛がわれてしまいました。

 何ということでしょう。暗殺者です。

 いつもなら近衛兵らが大暴れしてくれるのですが、今回は自分の身も守れぬ女性ばかりでありました。

 刺客は見えている限りで10数人。

 まさか招待客らが全て人質になってしまうとは。

 王子は歯噛みしました。


「動くなよ。お前は人質だ」


 違いました。

 自分が人質でした。

 一体何を要求されるのか。

 犯人は少し離れた所にいる王様に話し掛けます。


 これからどんな要求をされるのか。

 そして自分は殺されてしまうのか。


 とても怖くはありましたが、せめて招待客はなんとか逃がせないかと視線を滑らせると、突然扉の向こうから轟音が聞こえてきました。


「不法侵入者ああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 ドガシャンと物凄い音を立てて扉が開いて壊れました。

 そこには、筋骨隆々の馬に跨がった、ゴージャスなドレスを身に付けた虎の被り物をした人物が乗り込んできました。


 ムキデレラでありました。


 その後ろでは正門玄関を守っていた兵士達の武器が踏まれてひしゃげております。

 どうやら力づくで正面玄関を突破してきたようです。


「ドレスコートも出来てない不届きものらよ!!!筋トレからやり直しなさい!!!!」


 そこからはまさに嵐でした。

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