第5話 怪奇現象のムキデレラ

 歌も口笛も不評だったので、先日男に教えて貰ったヨーデルを歌いながら外壁を磨いていると、二階の窓から声が漏れていました。


 窓から顔を出したい気持ちでしたが、先日ドリゼラお姉さんがこれをして泡を吹いて気絶したのでお義母さんに禁止されておりました。

 仕方がないのでムキデレラは壁に耳を当てて会話を聞きます。


「まぁ!招待状が来たのですの??」

「これはチャンスよ!しっかりと準備しなくちゃ!」


 お姉さん達がいつもと違って元気に跳ね回っていました。

 ブドウカイの招待状というのがよほど嬉しいようです。




 翌日、ムキデレラは男に訊ねました。


「ブドウカイって何ですか?」

「ブドウカイって、あの武道会かい?」

「どのブドウカイか分かりませんが、その招待状が来たらしいのです」

「へえ!そいつァ良いことだな!お姉さんにかい?」

「いいえ、お義母さんとお姉さん達にです」


 男は首を傾げました。

 そういう類いのものならば、真っ先にムキデレラに来ると思っていたのですが、まさかの違う人への招待状。

 オイラが思ってたよりも武道派だったのかと男は館にいる三人を感心しました。


「見学は出来るのかねぇ?」

「どうなんでしょうか?開催場所はお城らしいですけど」

「へええ!じゃあ、もしかしてお城勤めの兵士の募集なのかもな!最近は特に物騒だし、もしかしたら戦うメイドを採用するためなのかもしれない!」

「なるほど!時代は男女平等ですものね!」


 盛大に勘違いしているムキデレラと男でしたが、残念ながら此処には訂正してくれる人が誰もいませんでした。


 話しは盛り上がり、そろそろ仕事をしないとと二人は別れました。


 先ほどの話を思い出し、お城を見つめるムキデレラ。

 ほんのちょっと、その武道会へ出てみたくなりました。

 お願いしたらちょっとだけ出して貰えないかなと、ムキデレラはお義母さんにお願いにいきました。


「お義母さん」

「ああ、ムキデレラ。ちょうど良かった。今日からこれを履いていなさい」


 お義母さんから素敵な靴が渡されました。

 ムキデレラは早速その靴を履いてみました。


「歩いてみなさい」


 言われた通りに歩いてみると、カチカチと不思議な音がします。


「ああ、良かった。これで心臓は助かった」と、お義母さんが独り言を漏らしましたが、ムキデレラはその靴が面白くてずっと歩き回っておりました。


「さ。仕事の続きをしてきなさい」

「はーい」


 庭に山羊を解き放って除草の最中野菜の収穫をしていたムキデレラは思い出しました。

 そうだ。

 お義母さんにお願いをしに行かなくては。


 しかしお義母さんは何処かに出掛けてしまったらしく居りません。

 ならばお姉さんにお願いしようとムキデレラは二人を探します。

 しかしどこを探しても二人は見付かりません。


 ムキデレラはネズミと小鳥を召喚して探して貰うと、何故か物置に居るというではありませんか。

 そこへ向かうと、何故か二人は震えながら抱き合っておりました。


「何をしているのですか?」


「さっきから変な音がするのよ!」

「カチカチと変な音がするのよ!」


 ああ、とムキデレラは自分の靴を指差しました。


「先程お義母さんから渡されたこの靴の音ですね。お義母さんの心臓を守るためだそうです」


 そう言いムキデレラは見事なタップダンスをして見せました。

 ムキデレラはタップダンスを知りませんでしたが、とても器用でしたのでそれっぽい動きだけでも様になっていました。

 変な音の犯人がムキデレラだと判明して、お姉さん達はげんなりしながら立ち上がると、扇で口許を隠して盛大にため息を吐きました。

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