第2話 完成のムキデレラ

 いつもの辛い仕事も、ほんのちょっと筋肉を意識してみると、あら不思議。こんな仕事でこの筋肉を使うのね!と新たな発見ばかりで辛い事なんて吹っ飛んでいきました。

 普段からやっている仕事なのでそれほど筋肉痛はありませんでしたが、シンデレラはその日から少しずつ普段の仕事に筋トレの要素を加えていきました。


 歩いていた階段を、脚を鍛えるために走りました。

 お水の汲み取りも回数を増やしました。


 そんな感じで過ごしていたらちょっと痩せてしまいました。


「筋肉が付かずに痩せてしまいました」


 そう男に相談すると、男は「もしかして!」と答えてくれます。


「たんぱく質が足りないのかもしれない。卵やお肉、豆などを多くとってごらん。たんぱく質は筋肉の元だからね」


 なるほど、とシンデレラは思いました。

 いつもシンデレラは固くなったパンと薄い味のスープばかりでしたから、そりゃ痩せる訳です。

 男からアドバイスを貰ったシンデレラは考えました。

 よくよく考えてみれば、手に入れようと思えばシンデレラは全て手に入れられる事に気がつきました。

 何せ家畜達の世話も、食事も、畑もシンデレラが管理していたのです。


「なんだ。私、思ったよりも筋トレの環境は良かったのね」


 早速その日からシンデレラはたんぱく質を取り始めました。

 朝一で取った卵を茹でて食べ、畑の豆を茹でて食べ、お義母さんやお姉さん用のハムやお肉をバレない程度に拝借しました。

 するとどうでしょう。

 普段から疲労困憊だった体が回復し、筋肉が喜ぶのを感じました。

 どうせお姉さん達は気付かないとふんだシンデレラは、こっそり畑の豆の範囲を増やしました。

 ついでに芋の範囲も増やしました。


 シンデレラは思いました。

 他にも筋肉にしてあげられることってなにかしら?

 早速男に聞いてみました。


 すると男は色々教えてくれました。

 たんぱく質も大事だけど、ビタミンがバランス良くなっていた方が理想的だと言われました。

 ビタミンというのが良く分からなかったシンデレラでしたが、それぞれが大切な働きをしていて、その中でも筋肉にとって良いらしいビタミンBを積極的に取った方が良いということは理解しました。


「食事って大事なのね」


 そう言いながらシンデレラはハムを頬張りました。

 本当はシンデレラごときがこんなにハムを食べてはダメなのですが、筋肉の為なら仕方ありません。

 それにしっかり食べた方がキリキリと動けて仕事が早く終わり、合間にこっそり教えて貰った腕立て伏せやスクワットが出来ます。


 こうして筋トレを始めたシンデレラ。


 朝起きて家畜達で筋トレして芋と雑穀パンのご飯を食べ、仕事筋トレしながら男から講習を受けて仕事筋トレをして、お昼にハムや卵に豆を頬張って仕事筋トレして、牛から牛乳を絞って飲んで仕事筋トレをして、雑穀パンに昼間摘んだ野苺を乗せて食べて筋トレして寝ました。


 そんな感じで過ごしていると、ちょっとずつシンデレラの体に変化が現れます。


 まず力が強くなりました。

 前は水汲みの際に使う桶1つで運んでいたのを、窪みを付けた棒を使って一気に4つ運べるようになりました。

 運べる量が増えたので、シンデレラはここぞとばかりに水浴びが出来るようになりました。


 脚が強くなりました。

 前は長い階段が辛かったですが、今では階段をダッシュで駆け上がります。

 なんなら一段飛ばしで、降りる時も最後10段を一気跳びします。


 握力が強くなりました。

 蒸し芋を潰したりする作業が、軽く握るだけで出来るので、料理がとても楽になりました。


 度胸が付きました。

 機嫌が悪くて暴れる牛や馬を片手で御せるようになりました。

 男が「動物でもしつければ驚く程いうことを聞くようになる」と言っていたので、シンデレラは試しに躾てみました。


 健康になりました。

 栄養豊富な食事に、適度な運動のお陰でいつも快眠のシンデレラはみるみるうちに肌艶が良くなりました。

 健康状態が改善されたので、また背も伸び始めました。




 そうして一年も経てばシンデレラは立派なゴリラ…ゲフン!

 素敵な女性へと生まれ変わりました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る