第3話 衝撃波のムキデレラ

「ムキ…シっ…シンデレラ!洗濯もの──…は終わってるわね。解れの修復も終わってる…。やるじゃない」

「ムッ…シンデレラ!!朝食の量がおかしいわよ!!何このバケツ一杯のマッシュポテト!????私のこと象だと思ってるの????違う!!!おかわりが欲しい訳じゃないの!!!」

「トロ…くないわね、…えーと、掃除は終わってるわね、水汲みも終わってる…畑…、……シンデレラ、仕事が終わったからと言って階段を永遠に駆け足で上り降りしないでくれる???私のルルシファー(猫)が怯えているじゃない!!!」


「なら壁でボルダリングします」


「やめなさい!!!!!」



 いつの間にかエラは時折シンデレラではなくムキデレラと呼ばれるようになりました。

 初めはムキデレラと呼んだお姉さん達は顔を青ざめさせて頭を両手で押さえるという謎の行動をしていましたが、シンデレラは「自分の筋肉が認められた」と思い得意気な顔をすると、姉達は次第にシンデレラからムキデレラと呼び名を移行しました。


 しかし、とシンデレラ、改めてムキデレラは首を傾げました。


 何故お姉さん達はいつも顔色が悪いのだろう?

 試しに訊ねてみました。


「何故お姉さん達はいつも顔色が悪いのですか?」


 お姉さん達はびくりと体を跳ねさせましたが、すぐにフン!といつもの態度に戻りました。


「おおおお遅れているわねムキデレラ!ここここれは!あれよ!い、今の流行は色白なのよ!!」

「そそそそうよ!白ければ白いほどいいのよ!」


 なるほど、と、ムキデレラは納得しました。

 筋肉しか興味の無いムキデレラは今時のお洒落の流行なんか知りません。

 お姉さん達がそう言うならば、そうなのでしょう。


「も、もういい?いいわね!?」

「お待ちください。もう1つ質問があります」

「な!なによ!私達は忙しいのよ!」

「お姉さん達はいつも声が震えておりますが何故なのですか??」


 二人揃って口を押さえるお姉さん達。

 しかし、すぐに深呼吸すると毅然とした態度で答えました。


「ここ、これは!そう!ビブラートの練習よ!」

「そうよ!ふふ普段からこうやって練習しておけばいざという時に困らないのよ!」

「そうなのですね」


 声といえばムキデレラは家畜達の暴走を沈めるために気合いをいれたり、家畜を狙ってやってくる狼に向かって威嚇をしたりくらいなので“びぶらーと”とやらが何の役に立つのか分かりませんでしたが、毎日歌の練習をしているお姉さん達が言うなれば、そうなのでしょう。


「もうっ!いいわね!??」

「はい、ありがとうございました」


 ハンドル式簡易乾燥機を使い、ムキデレラは洗濯物を乾かしながら考えました。


「歌ですか」


 試しに歌ってみることにしました。

 お姉さん達がいつも歌っている曲です。

 声を震わせる“びぶらーと”も合わせてみることにしました。

 実はいつも狼に向かって威嚇をするときにやるので声を震わせるのは得意でした。


 ムキデレラは胸を空気で一杯に膨らませて、一気に解き放ちました。


 声量自体は狼にも負けませんから、ここぞとばかりに歌いました。

 喉から放たれた声は超音波となって周囲の物を揺らします。

 ムキデレラは思いました。

 歌うって楽しいな!と。


 バターン!!と館の二階の窓が開き、お義母さんが楽譜をメガホン代わりにして声を張り上げました。


「やめなさいムキデレラァァァァ!!!!!貴女の声で館のガラス全部割る気なのォォォォ?????」


 お義母さんの手には、ムチャクソ高かったわぁー!と昔自慢していた壺が無惨に割れておりました。

 なるほど、と、ムキデレラは思いました。

 私は声が人より大きいからそう言うこともあるのかもしれない。


 仕方がないのでムキデレラは歌ではなく口笛を吹く事にしました。

 肺活量が凄いので口笛も汽笛のようでありましたが、幸いにもガラスを割ることは無かったようでお義母さんは耳栓を耳に詰め込んで無視をしてくれました。

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