突撃☆ムキデレラ!!!

古嶺こいし

第1話 覚醒のシンデレラ

 昔々、といってもここの世界ではない何処かのパラレルワールドでの昔。

 とある国にエラという少女がおりました。


 エラは優しい両親のもとですくすく育ちましたが、流行り病でお母さんを亡くしてしまいました。

 悲しみにくれたお父さんは、ある日お義母さんを連れてきました。

 そのお義母さんは二人の子供がおりまして、その子達はエラのお姉さんになりました。


 それなりに楽しく暮らしていたエラでしたが、少し経った頃、お父さんが隣町に行ったっきり帰ってこなくなりました。

 お義母さんが言うには崖から落ちてしまったそうです。


 エラは悲しみましたが、そんな余裕はすぐに無くなっていきました。


 お義母さんやお姉さん達がエラをこき使い始めたからです。


「シンデレラ!シンデレラ!!早く洗濯物を持っていってちょうだい!!」

「シンデレラ!!朝食はまだなの!?」

「トロくさいシンデレラ!!!掃除が終わってないじゃないか!!」


「はーい!ただいま!」


 いつの間にかエラは、シンデレラと呼ばれておりました。

 忙しすぎて頭から被った灰も落とす暇もなく働いていた為、シンデレラ灰被りのエラという意味でした。


 バタバタと世話しなくシンデレラは働きます。


 家畜達のお世話にご飯を作り、掃除洗濯水汲みまで、ありとあらゆる雑用は全てシンデレラの仕事でした。


 ご飯を食べる時間も睡眠時間も削って働く毎日で、シンデレラは毎日こっそり泣いていました。

 なんでこんなに皆は私に辛く当たるのだろう。

 何故と訊ねればいつも返ってくる答えは、「下らない事を考えてないで、さっさと仕事を終わらせな!」でした。


 ある日、水を汲みながら泣いていると、塀の外を男がエッサホイサと走っていきます。


 毎日毎日、背中にたくさんの荷物を背負って隣町まで走って行く男でした。


 いつも黙って見ているシンデレラでしたが、なんの気まぐれか、その男に声を掛けました。


「おにーさん。重い荷物を背負っているおにーさん。質問があるのです」


 男はシンデレラの声に反応して急ブレーキを掛けました。


「おやおや、お屋敷のお手伝いのおねーさん。おいらに何か用かい?」


 お手伝いではありませんでしたが、それを訂正するよりも先にシンデレラは質問を投げ掛けました。


「おにーさんは何故毎日重い荷物を運んでいるのに楽しそうなのですか?」


 そうです、この男、大変だろうにいつも楽しそうに荷物を運んでいるのでした。

 男はシンデレラの質問に目を丸くし、次いで大声で笑いました。


「愚問だよお姉さん。おいらにとっちゃ、この仕事は絶好の筋トレなのさ!ご覧この足を!」


 そう言うや男はシンデレラにズボンを捲って逞しい脚を見せ付けました。

 極太のハムストリング太股にメリハリのついたヒラメ筋がピクピクと存在感を主張しています。


「まぁ!凄いですね!」

「日々筋肉をこうして鍛えているからな!しかしおいらから見ればお姉さんの仕事も筋トレには絶好な内容だと思うぜ!」

「どうしてですか?」

「仕事内容は水汲みに洗濯掃除だろう。それらは全て意識すれば全部筋トレになるんだ!筋肉は良いぞ!鍛えれば鍛えるだけ答えてくれる!」


 男はシンデレラに筋肉の素晴らしさを語りました。

 生まれて初めて筋肉の奥深い話を聞いたシンデレラは大層感激しました。

 こんなにも素晴らしい筋肉を何故今まで無視していたのか、己の無知さを恥じました。


「私にも出来るかしら?」


 シンデレラがそう訊ねれば、男はニカッ!と笑って答えました。


「ああ、君なら素晴らしい筋肉を育て上げられるに違いない!」


 こうして男からお墨付きをもらったシンデレラは、早速筋トレを始めました。


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