忙しい人のためのファンタジー~3000字で終わる異世界転移~
九戸政景
本編
王や主だった者達が集まる王宮内の謁見の間、そこに一人の現代人が召喚された。名前は
「必ず世界を平和にしてみせます」
武器選びや簡単な訓練を数日かけて行った後、その間の世話役を務めてくれた兵士の一人であるエリックを仲間にし、李光人はエリックと共に旅立った。
元の世界においては一般的な高校生である李光人に異世界での旅や魔物達との戦闘は困難を極めた。しかし、旅の中で親友と呼べる程に絆を深めたエリックの言葉に支えられ、李光人は道中に訪れたエルフの里で暴れていた魔物を討ち取り、旅についていくといったエルフのシエルを仲間に加え、一行は再び旅を始めた。
女性を一人加えた李光人達の旅は多少華やかになったが、異性がいるという点でお互いに気を遣う事もあり、それが原因でエリックとシエルが喧嘩をする場面もあった。
しかし、李光人はその喧嘩を利用してある街で暴虐の限りを尽くしていた魔王の手先を討ち取ると、エリックとシエルはお互いの腕を認め合うと同時に意識し合い、ある日の夜の野宿中、気を利かせた李光人が席を外すと、二人は愛を確かめあった。
二人が恋人同士となった三人の旅は特に拗れる事はなく、むしろ連携力を増していた事で魔王の四天王の一人を討ち取る結果となっており、四天王が支配していた王国の王子であるアーサーは自身も力になりたいと言って、李光人達の旅に同行する事となった。
「この力、君達の為に使おう」
旅や野宿に慣れていないアーサーの加入は多少の問題こそ起きたものの、これと言って大きな問題は起きずに一行は港町へとたどり着いた。
港町での物資の補給中、シエルと行動をしていた李光人はシエルの思い描く旅が終わった後のエリックとの生活について聞き、それについて微笑みながら答えていたその時、シエルを拐おうと考えた海賊達に囲まれた。
エリックとアーサーを欠いた状態ではあったが、二人は海賊達を全て倒し、エリックとアーサーが合流した後に海賊達の船長のグランは李光人達の強さを認めると、自分と共に近海を支配している四天王を倒して欲しいと頼んだ。
李光人達はそれを了承し、グランと共に船に乗って海を渡り、四天王が支配しているという国の近くにある港町へ着くと、李光人達の噂を聞き付けていた四天王が差し向けた刺客に李光人は捕まり、仲間と離れさせられた上に牢へと入れられた。
李光人を助けるためにエリック達が四天王がいる国へ向かっている最中、武器を取り上げられた李光人は兵士達から手や足に枷を付けられている状態で暴行や恐怖による拷問を受け、身体に付けられた夥しい程の傷からの流血や拷問によって吐き出した嘔吐物などで床は汚れていた。
そして李光人の目から光が消えかけていたその時、李光人を助けようとこっそり牢屋へ忍び込んでいたその国の姫であるエリーゼの助けとエリック達との合流で虫の息だった李光人は助け出され、応急手当と李光人の精神のケアをした後に六人は四天王と対峙した。
四天王は李光人達の姿に驚いたが、自身の力で叩き潰すために真の姿へと変化し、その強大な力で李光人達との戦闘を開始した。しかし、闇から抜け出した李光人の新たな力の目覚めと仲間達との連携で四天王は倒され、四天王によって命を失った王の代わりに姫は国を治めると決めて、その日の夜は李光人達の功績を讃えた宴が催された。
宴が終わり、仲間達がそれぞれに宛がわれた部屋で寛いだり就寝したりする中、李光人は姫に部屋へと呼ばれ、想いを告げられていた。
「今はその想いには応えられません。俺には魔王を討つという役目がありますから」
「それならばせめて貴方の中に私の存在を刻み込ませて下さい」
寝具の上で姫の清らかだが艶かしさのある肢体を味わい、次世代への種子を姫の中へと残した翌日、李光人は必ず戻ると約束して仲間達と共に出発した。
グランを正式に仲間に加えた李光人達は船で海を渡って新たな大陸へと上陸した。これまでの国々とは違う和の雰囲気を醸し出すその大陸に仲間達は物珍しそうな視線を向けていたが、李光人は元の世界を思い出しながら懐かしそうな表情を浮かべていた。
そして李光人達は三人目の四天王の噂を聞くと、李光人達に対して力試しで挑みかかってきた忍者のサギリを仲間に加えて、その国へ向かうために歩き続けた。
数日かけてその国へ入ると、すぐさま四天王が差し向けた手下達との戦闘が始まったが、困難を乗り越えてきた李光人達の力は圧倒的であったため、三人目の四天王も討ち取られたが、直後に李光人を脅威だと判断した魔王がその場に現れた。
魔王は李光人を亡き者にするべく、四天王との戦いで疲労していた李光人に襲いかかったが、エリックが身を呈して守った事で魔王は一度退いた。
しかし、魔王の一撃によって受けた傷は深く、シエルの治癒ですら追い付かない程だった事で、エリックは李光人達に魔王討伐と世界の平和を託し、シエルには死してもなお愛していると告げてその生涯を閉じた。
「みんな……いままで本当に、ありが……とう……」
エリックの死は李光人達を悲しませ、特に恋人だったシエルの心に深い傷を負わせたが、エリックの死を乗り越えたシエルの言葉で李光人達は再び立ち上がり、最後の四天王を倒すべく、その大陸を後にした。
最後の四天王がいる魔物達の大陸へ上陸した李光人達は魔王の行いを悪だと考えて城を抜け出していた魔王の娘である魔族のエイリーンと出会い、その手引きで最後の四天王の元へたどり着いた。
魔王の娘の裏切りに四天王は憤怒したが、エイリーンの膨大な魔力とエリックの死を経て強さを増したシエルの連携によって倒され、一行は魔王の待つ魔王城へ向けて歩き始めた。
その道中、魔王の力によって神殿に封印されていた古の勇者の聖剣を勇者の幻影との戦いを経て李光人は目覚めさせ、志半ばで倒れたエリックの思いを胸に魔王城へたどり着いた。
これまでよりも激しい魔物達の猛攻を李光人達は退け、エリックの亡霊を操ってくる側近との戦闘の後に李光人達は魔王と対峙した。
四天王や側近を倒し、自身の娘を仲間に加えた李光人達の力を認めた事で、魔王は真の力を発揮して李光人達を圧倒した。しかし、古の勇者の聖剣の力と李光人達を助けたいというエリックの魂の助力、李光人達の平和を願う想いによって魔王は倒され、一行は魔王の討伐と世界の平和という目標を見事達成した。
「……遂にやったぞ、エリック……」
その後、残った魔物達を今度は自分がしっかりと組織すると言ったエイリーンや自分の国へ帰るアーサー達と別れて李光人はシエルを連れて自身が転移してきた国へと凱旋した。
王は李光人達の功績を讃えたが、李光人を元の世界へと戻す手段はなかったため、李光人はこの世界に骨を埋める事を決めて、愛する人の待つ国へと帰った。
李光人の帰りを姫は喜び、シエルはその国の国賓としてエリックの死を悼みながらも魔術の研究に勤しみ、李光人は姫との結婚を果たした事で、その国の王となり、転移してきた国やアーサーの国と同盟を結び、エイリーンとも人間と魔物が協力して生活出来るようにと平和条約を結び、李光人達の冒険譚は長く語り継がれた。
忙しい人のためのファンタジー~3000字で終わる異世界転移~ 九戸政景 @2012712
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