第6回:チャット欄の草刈り

「ぁああああ、あさりちゃ~ん!」

「なんか懐かしい感じね……」

 最近は泣きつくことの減ってきた後輩の中洲しじみが久しぶりに相談を持ちかけてきた。忙しい汽水あさりに悪いからと、先輩に聞く前にリスナーやAIに相談して解決することもあったらしい。ちょっと寂しい。

(いやいや!依存しているのは、しじみの方なんだから!絡みたければ相談以外で絡めばいいんだし!!)

 葛藤している先輩に対して後輩がしてきた相談は「最近リスナーの長文コメントが多すぎる」というものだった。


「ま、流れるコメントは三行でも長すぎるからね」

「文章になっているだけ、リスナー同士の会話も始まっちゃいやすいの……」

 この界隈においてリスナー同士の会話とは、潜在的な口喧嘩を意味する。

 最初は気の利いたコメントをしじみが褒めたことから始まったらしいのだが、成功体験のブレーキが掛からない人間が世の中には一定数いる。褒められたリスナーは頻繁に長文コメントをするようになり、それに対抗心を燃やして他のリスナーも長文コメントが増えたらしい。

「……ブロックすれば?」

「ね゛ぇ~~~っ!!!」

 二言目には「ブロック」である。それが気軽に出来れば苦労はしない。お約束のやりとりってやつだった。最後の手段としてブロックが残されていることを認識すれば、心に余裕が生まれる面もある。

 しかし、逆にブロックを使うなら最初のうちで、最終的なブロックの使用は逆効果を呼び込むという考えもあった。

 草刈りと草原維持の関係にちょっと似ているかもしれない。いやな雑草が蔓延ってから草刈りをしても、種や茎を散らして増やしてしまう結果に終わる可能性がある。


 そもそも、しじみは長文コメントリスナーを嫌っているわけではなく、長文を控えてほしいだけなのだ。求められるのは、自由な意志をもった人間をコントロールされている自覚なしにコントロールするテクニックだ。

(……それが出来れば配信より儲ける方法があるのでは?)

「うーん、しばらく雑談控えるとか……」

「それはちょっと寂しいなぁ……」

(あたしも寂しかったんだけど)


 いろいろと話し合った結果、しじみは長文コメント対策として自分の真横にフキダシを表示させることにした。文章が一定の長さを持っているとフキダシが彼女の身体に重なってしまい、姿を見ることができなくなる。全身像を表示して素足を隠したときは特に効果覿面だった。

 逆に身体で長いコメントを隠す方法もあったが、画面外では長文が表示されるので、しじみが隠れる方が有効なようだった。



「ふぅ……今度は薬が効きすぎて『みんなが一文字しかコメントしてくれないよ~!!」って泣きついてこなきゃ良いんだけど」

 ぼやきながら期待しているあさりなのであった。

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