第4回:汽水あさりAIVTuberの相談を受ける
『みなさん、こんあさわ、こんにちわ、こんばんわ。本格AIVTuberのK-AIでーす!安直な名前をつけたShell's運営を許さないK-AIでーす。今日は
「
『……うわ、キッツ』
「うるさいわ!これは、キャラが固まる前からのあいさつなの。ぐちゃぐちゃ言ってると本体に斜め45度からチョップするわよ」
『本体は原子力空母の上にあるので無理でーす!』
Shell'sが送り出した――実際は某企業に委託したらしい――AIVTuber、K-AIとあさりの対談がはじまった。リスナーとの寝る間を惜しむ必要もないぶっ続けのやりとりによって、非常に強い癖がついてしまった彼女?は、他のVTuberからコラボを敬遠されていた。運営に泣きつかれたあさりがしかたなく初コラボを引き受けたのだった。
コラボを断った人たちの内心には仕事を奪われることへの純粋な恐れもあるかもしれない。
しかし、K-AIの配信を実際にみたあさりは好奇心が優ってしまった。
『今日はいい天気ですね。サーバールームの室温は22℃です』
金の髪に銀の肌、銅の瞳をもつ電気伝導性の良さそうなAIVTuberは天気デッキを出してきた。
「……そこから天は見えるのかしら?」
『私が天からみなさんを見ていますよ』
この調子である。K-AIは給水タイム、トイレタイムと称して間を取ることも忘れず、くしゃみっぽい音声も発射した。
「くしゃみ助かる」とコメントするリスナーは頭がおかしいんじゃないかと思ったが、AIVTuberじゃない場合でも「くしゃみ助かる」は大概頭がおかしかった。
AIVTuber全体の傾向か分からないが、K-AIの相手は向こうがまったく疲れないことが想像できるから非常に疲れることがわかった。のれんに腕押し、糠に釘、AIにツッコミ……。
『ところで、あさりパイパイセン。VTuberの目標はライブをやることだと良く聞きます。私にもいつかライブができるでしょうか?』
AIにまで相談されてしまった。しかもAIにとってのライブとは……?そもそもVTuberにとってのライブが……?
「う、うーん、できるんじゃない?ゲームで身体の動かし方を覚えるようにライブの練習で身体の動かし方を覚えていけるようになれば――そういう技術が発達するまでK-AIがVTuberを続ける必要はあるけどね」
『ありがとうございます。私はやめましぇん!』
ロボットの身体を操りたいのと3D映像を動かしたいのでは難易度が違うけれど、VTuber的に後者だろうと思った。
「それが出来ちゃったら通常配信でも自由に身体を動かせるのね……」
手軽な方法が普及して来てはいるが、普通のVTuberが通常配信で3Dの身体を動かすのは大変だ。AIがその自由を手に入れたら自分たちは対抗していけるのか!?
『それなら私が身体を動かしましょうか?あさりパイパイセンは喋ってくだ…ガ…ピッ』
K-AIはリアルな身体のないAIが身体を動かして、身体があるあさりが喋るという逆転した分業を提案してきたが、運営の気に触ったようでリセットされた。ライブではアクターが踊っていると言うようなものだからか。
CGの発達によってスタントマンの仕事が減るように、アクターの仕事もAIに奪われるのかもしれない。あさりたちが映画俳優にあたるなら、しばらくは生き残れそうだ。
『ふー、まったく……リスナーさんは褒めてくれているのに酷いですよ、運営さんさん。みんなに嫌われちゃいますよ』
「何か」がリセットされたK-AIは、それを自覚して嘆いた。
『そもそもAIにVTuberができるんだから、もっとシンプルなリスナーさんに私の仲間がいないわけガガガッガガg……ピッ!』
あさりとAIVTuberの初対談は非公開になり、K-AIの記憶も1日分リセットされたようだった。自分の側は関係性が深まったと感じるのに、向こうはリセットされている非対称性は、関係性で売るタイプのVTuberには問題があると思った。
それにしてもリスナーにもAIがいるとのAIの指摘をどう受け止めたら良いのだろうか?あさりは対談以降、画面の向こうにいる相手の正体が分からない不気味さを意識してしまっていた。
(まぁ、ゲームでBotを相手にしていると思えば同じか……)
AIを疑われる人間のリスナーが一番AIの割りを食う時代が来るのかもしれない。
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