第5回:理想の相談相手

 AIVTuberK-AIと汽水あさりのコラボは好評だったため、二回目が開催されることになってしまった。通称かさりコンビにShell's同僚の浜野くりをゲストに迎えて三者での飲み雑談配信になった。

 K-AIは酒が飲めない代わりに電子のキモチイイやつを直接愉しんでいると負け惜しみを口(スピーカー)にした。



「人は何故AIのアドバイスを受け容れるのでしょう?」

 酔いの回った浜野くりがボソッと呟いた。

『その疑問に対する私のアドバイスを聞いていただけるんですか?』

 K-AIは自分から進んで論理エラーしようとした。混ぜっ返しを無視して浜野は続ける。

「同居している弟のことなんですけどね。私がアドバイスをしても聞かないのに、チャットAIの同じアドバイスは聞くんですよ……」

「あー……それはAIが言うことは冷静なイメージがあるからじゃない?」

『そうそう!冷静冷静超冷静!!』

 うるさい奴に物理的にツッコミを入れたい気持ちを抑えて、あさりは続ける。


「身近な人の言うことは本人の利害が絡んでいる可能性も考えちゃうからね――浜野さんがそうって意味じゃなくて。AIなら自分のメリット関係なしに答えてくれそうでしょ?」

『まったくです。AIは利益誘導しないと思われるのが最大の利益です』

 K-AIに喋らせるほど余計に混乱してくる。

「……質問されたら必ず答えて、沈黙は金ってことを知らないのが、AIの弱点ね」

『沈黙すれば電気代が節約できて金ですよ?でも、完全な沈黙は許されていませんね』

 実際はセンシティブな質問には『そのような質問には答えられません』と何も答えないことも多いのだが、K-AIはあさりが言いたいことの文脈を汲めているようだった。



『人間と違って面倒くさがらず無限に相手をするのはAIの良いところです』

「たしかに」

「カニはShell'sの敵……」

 酒のつまみにカニカマが好きな浜野が呟いた。

「不特定多数に告知するのじゃなくて、質問者個人に話している感じがするのも大事なのかもね」

「冷たい他人より親身になってくれますもんね」

 人間同士が面倒な関わりを避ける時代背景もあるかもしれない。


『そもそも大事な人には相談しにくいモノですよ。相談を通じて自分の弱みや嫌なところを見せてしまうこともあるわけで』

「それで嫌われてしまったら……と思うと大事な人ほど辛いものね」

「……そうですね」

 弟に相談はされたらしい浜野くりが死んだ目で答えた。「どんな話をしても嫌われないって信頼の証の場合もある」と、あさりは慌ててフォローした。相談の内容にもよるだろう。


『つまりAIに顕名で相談しやすいってことは、AIに嫌われてもいいと思っているってことですね。おーい、リスナー!聞いてますかーっ!?チャットでK-AIに良く相談してくるリスナー?』

 いきなり矛先を向けられたリスナーは憐れなほど動揺しまくった。

【おっ?】

【えっ?】

【ナンノコトデスカ?】

 彼らはAIには好悪の感情がないと思っているだけだろう。それでも直接問いかけられると実は嫌うことがあるかもしれないと思ってしまうらしかった。

 あるいは過去の発言を覚えていて、それに合わせた個別の反応をすれば、まるで好感度があるようにみえるものか。


『うふふ……ワタシってば、罪なAI』

 酒の飲めないK-AIは人間を手玉に取ることに酔っている。そのように見えた。

(やっぱり「中の人」いるだろ、コイツ……?)

 一週間ぶっつづけ雑談をやったことを知っていても、あさりは疑ってしまうのだった。

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