未来の医療
結騎 了
#365日ショートショート 283
「本当によろしいのですか。確証はどこにも無いんですよ」
白衣を着た男性は、物憂げな表情でカプセルを見上げた。人がひとり収容できる大型のカプセル。それはタイムマシンだった。
「もう、未来の医療に賭けるしか……。それしか、方法が思いつかんのじゃよ」
その中にいたのは、齢80の老人。それまで元気に生きてきたが、80歳になって不治の病が発症。あと半年の命と宣告されていた。老人は全財産をはたき、タイムマシンでの渡航に全てを賭けたのだ。
「その決意は分かります」。マシンを操作する白衣姿の男性は、ボタンやレバーを扱いながらぼやいた。「しかし、未来の医療があなたの病気を治療できるとは限らないのです。100年先の未来でも、それはそのまま不治の病かもしれません。未来の可能性は無限にあり、医療がどのような発達を遂げているか……。それは私には分かりません。だからこそ、これは分が悪い賭けです」
「いいから、起動させるんじゃ」
老人は静かに言い放った。溜息と共に起動ボタンが押される。老人の視界は急速に縮まり、光に包まれた。「いくぞ、100年先の医療に全てを託す旅……」
「おっ、また誰か転送されてきたわ。これは、えっと。なんと100年前からよ。随分とまあ、遠くからきたものね」
声が聞こえた。老人がゆっくり目を開けると、全身を銀色のスーツに包んだ女性ふたりがカプセルを取り囲んでいた。この時代の医療スタッフだろうか。
「この老人の年齢はいくつなの。測定した?」
「今やってるわ。えっと…… 80だって」
「じゃあ、このままカプセルごと破棄しておいて。現代の医療制度じゃ、人の寿命は70歳までで終わらせることになっているから。昔は高齢者が少なかったから、好きに長生きできたみたいだけど」
未来の医療 結騎 了 @slinky_dog_s11
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