第12話:茶会と新たな貴族


「おはようございます!」


 浮浪児たちを雇ってから数日経った。


 全五階層のダンジョンはまだ攻略されていない。


「おお、今日も来たのか。 偉い偉い」

「うん!」


 少し小ぎれいになった浮浪児を雑に撫でると、元気いっぱいに笑う。


「ナターシャは今日あたりゴールできるんじゃないか?」


 浮浪児の中でも最も俺に懐いている少女に言うと、彼女は目をそらした。


「……まだまだだよ!」

「いやいやいや、そんな馬鹿な」


 このナターシャという少女、おそらく剣術の才能がある。

 素人の俺から見ても分かるくらいには良い動きをしているのだ。 先日、初めて剣を握ったと聞いているのに。


「まだなものはまだなの!」

「そう……? まあ本人がそう言うならそうか。 今日も頑張ってこい!」

「はーい!」


 見た目もやたら美形で、明らかにただものではなさそうだけど――


「まあいいか」


 分からないことを考えても仕方がない。

 誰にだって事情はあるだろうが、いちいち首を突っ込んでいたら体がもたない。



「本日はお招きいただきありがとうございます」


 今日はガッレト子爵に招待されたお茶会にやってきた。


「あまり固くならなくていいよ」


 相変わらず気さくなクラウトの態度に、相手が貴族であることを忘れそうになる。 しかし相手がいくら気楽にと言っても、それを真に受けると使用人たちの視線がキツなるので砕けることは難しい。


「ありがとうございます」

「まあいい。 今日はソニアも参加させてもらうよ」

「調子がいいんですね」

「ああ、最近不思議とな」


 庭の点検という名目で近頃、お茶をいただく機会が増えた。

 ソニアも調子がいい時は毎回、参加するので多少は打ち解けている。


「お待たせいたしました。 お兄様、オキ様こんにちは」


 とはいえあまり会いたくない相手でもある。


 嫌いじゃない、むしろ好ましい性格をしている彼女だがしかし容姿が良すぎる。


 抜群のスタイルに、雪のように白い肌。 優しいクリーム色の長髪が白いワンピースに映えている。


 風に揺れる白いベールからちらりと覗くのは、まるで二次元を具現化したような整った顔。


 惚れているわけでもないのに、毎回胸が苦しくなって嫌になる。


「はい、こんにちはソニア様」

「まだそんな他人行儀な」


 拗ねた表情も良きだ。


(彼女欲しいな)


 彼女に会うたびそんなことばかり考えてしまう。


「失礼」


 そんなほのぼの空気の中、厳めしい声が掛けられた。


 見ると見知らぬおじ様がいた。


 ガレット子爵は驚いた様子で立ち上がる。


「これはグラディウス伯爵! 突然、どうされましたか?」


 見知らぬおじ様はどうやらとてもお偉い方らしい。

 俺はなんとなく居心地が悪くて隠れるように体を小さくした。


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異世界で庭師となったダンジョンマスター~ライバル業者にパワハラを受けたので創造してぶっちぎる~ すー @K5511023

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