第11話:貧民街とダンジョン初級編


***


 毎日お腹が空いていた。


 守ってくれる人も、


 導いてくれる人も、


 頼れる人もいない。


「大人になっても変わらないんだろう……」


 魔物に両親を殺され孤児に、


 親に捨てられ、


 騙されて負った借金から逃げるために、


 この裏路地には様々な事情を抱えた人たちがいる。


 いつかこの薄暗い世界から出て、日のあたる道を歩けるようになるのだろうか。

 目の前にあるのに、ひどく遠く思えた。


「そういえば」


 こないだ食べた焼きたてのパンは涙が出るほど美味しかった。


 ここ最近、時々顔を見せるようになった不思議な男。

 路地裏ではちょっとした有名人になっている。


 彼は気づいているだろうか。 彼が来ると路地裏の雰囲気が少しだけ明るくなっていることに。 人々に笑顔が増えていることに。 どれだけ感謝されているか。


「あの人が来たぞ!」


 誰かがそう言うと死んだ目をしていた孤児たちの瞳に光が宿った。


***


 

 俺はさっそく路地裏に来ていた。


 最近、浮浪児たちの行儀がとても良い。

 何も言わずとも並び、大人しく食べ物を受け取る。


 俺を見る目がキラキラしていてむずがゆくて、微妙な気分なる。 が信頼されているとしたら、今回は好都合だ。


 食べ物を配り終えると、俺は手を叩き注目を集めた。


「え~、今更だけど俺は庭師をやっている隠樹創太と言います」


 浮浪児たちが一斉にこちらを見てくる。


「実は今、人を雇いたいと思ってます。 戦わなきゃならないし、危険だし、給料も高くはない。 それでも良ければ働きたい人いますか……?」


「俺働くよ」

「俺も」

「私も」


 続々と希望者が出た。

 ここにいうほぼ全員が働く意欲があるらしい。 ありがたいが予想外に人数が多くて、懐が心配になってくる。


「ありがとございます! じゃあさっそく行こうか!」


 とはいえ今さら人数制限できないので、覚悟を決めて彼らを引き連れて家へと向かった。




 家の庭にぽつんと置かれた扉。

 ここが新たなダンジョンの入り口となっている。


 一階層は一本道の簡単な構造になっている。

 モンスターも簡単に倒せるものしかおらず、宝箱から低級の装備一式がドロップするよう設定した。


「まあ簡単だから大丈夫だろう」


 浮浪児たちに説明を終えた俺は最終階層で、彼らの様子をのんびりとモニタリングする。


 一階層は所謂、初級者用である。

 戦い方を覚えて、装備を揃えるための階層だ。

 

 簡単なはずである。


「俺はやるぞやるんだああああああああああああ」

「ああああくらえええええええええええええええ」

「神よ、力をあたえたまえええええええええええ」


 なぜか壮絶な戦いになっている。


「えぇ……」


 俺は腰を上げて一階層へ移動した。


「そんな必死にならなくても大丈夫だから」


 ダンジョンマスターであるはずの俺はなぜか魔物の倒し方をレクチャーするはめになるのだった。

 

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