第10話:金貨と冒険者ギルド


 貴族の依頼を終えた夜、やはりというか俺は白い世界にやってきていた。


「なんでここに呼ばれたか分かってる?」


 神はため息交じりにそう言った。

 一番面倒臭い怒り方だ。


「さあ……会いたかった、とか?」

「君、地獄に落とすよ?」

「申し訳ありませんでした」


 素直に謝った方が早い。


「僕だってあまりとやかく言いたくないんだ。 これで最後にしてほしいものだね」

「はい頑張ります(じゃあ言わなきゃいいのに……)」


 神は咳払いして、


「冒険者とモンスターが戦うダンジョンらしいダンジョンを創ってくれ」

「かしこまりました」


 その言葉と共に意識がぼやけていった――


「……さてどうしようか」


 了承したとはいえ、やっぱり自分が創ったダンジョンで人が死ぬのは気分が悪い。 たとえそれが冒険者自身のせいだとしてもだ。


 故に考えなければならない。


「うーん、やってみるか」


 俺は一人呟いて、冒険者ギルドへ向かった。





「依頼を出したいんだけど」


 かつて働いていた職場だが、今回は依頼人という逆の立場だ。


「はい、ありがとうございます。 どのようなご依頼でしょうか?」

「とある魔道具に魔力を注ぐ簡単な仕事さ」


 俺はそう言って金貨をカウンターに置いた。





「ホントにそんな簡単なことで金がもらえるのか?」


 冒険者ギルドに長い列ができている。

 並ぶ人に共通するのは若く、装備がまだまだ安っぽいところだ。


 怪しげな魔法使いに俺はスマホを向けて、


「本当さ。 魔力を注ぐだけで銀貨一枚だ」

「話が上手すぎて信じられないよ。 普通に依頼を受けるより全然儲かるじゃないか」

「ああ、だからこの依頼を見つけた君たちは幸運だよ?」


 神にダンジョンを創れと言われても、元となる魔力がガレット子爵の依頼のおかげで底をついている。


 今の俺は小金持ちなので、金の力を使って解決するつもりだ。


「まじかよ……久しぶりにまともな飯が食える!」


 魔力を注いでもらって報酬の銀貨を渡す度にみんな大げさに喜んだ。

 低級の冒険者と言うものは色々と入用なものなのだ。


「やったー! これで弟の薬が買える!」


 彼らの様子を眺めながら俺はダンジョンについて考える。

 

 やっぱり人が死ぬようなダンジョンは嫌だ。

 とはいえ神を無視するわけにもいかない。

 本当にどうしたものか


 人が死なないダンジョンなんて創れるのだろうか。 創ったところでどんな冒険者がわざわざ来るのか。


 俺はふと思う。


――人を雇ってしまえばいいのか。


 人を雇ってダンジョンのネタバレをした上で、戦わせればいいじゃないか。

 なんでこんな簡単なことを思いつかなかったのか。


 安い労働力といえば、俺が思い浮かべたのは通い慣れた裏路地だった。


 

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