6話 喫茶店での出会い
俺の名前は、三輪トキスケ。アンデットの頂点とも言えるバケモノの王「リッチ」に支配されている哀れな高校生だ。祖父が勝手な契約をしたせいで、ひどいめにあってる学生だけど。なんやかんやで無事に生きてる。
だけど、このままじゃダメだろ。バケモノは何をしてくるか分からない。それにユメコが学校に来てない。休校扱いになってるようだけど。探しに行ける間柄じゃない。告白したけど、振られたけどさ。俺には……やることがある。
バケモノを退治して日常に戻ることだ。
ハンターに助けてもらえるかと思ったけど、ぜんぜん役に立たなかった。やっぱ人間じゃ勝てない。
自衛隊でも勝てるかどうか。
しばらく日が過ぎてから、バケモノ退治を生業としてたピエールから教わった喫茶店へと向かった。あの時は彼から話を聞いたり、肉を食べるのに夢中で喫茶店を経営するマスターを気にしなかった。
そいつは前髪が後退している壮年の男だ。パッと見てもカタギじゃないとわかる。名前はウド英二と名乗った。
「ピエールさんからの紹介できました」というと、驚いたように目を見開いてた。
「シュガーピエール? あいつは、あいつは無事なのか?」と聞かれた。
だから、彼に今までの事情を説明した。
ピエールが敵を吸血鬼と思い込んで、太陽がでてる時に退治しようとしたこと。そして、返り討ちされてバケモノにされたこと。俺は自分の首元の絆創膏を剥がして見せた。
その傷のつき方を見て、男は忌まわしそうに目を逸らす。
しばしの沈黙。
「――すると、ピエールは戻ってこないわけだな?」
信じられないように俺をみた。
「うちで執事の格好してるよ」と答えておいた。
「形から入るやつだったけどな……」と苦笑いしている。
「ひどい目に遭ったよ、俺も……」と言っておいた。
すると、さっきまで笑っていた男の目が冷たくなる。
「ひどい目に――だと?」
「あんたのとこのハンターが失敗したせいで、バケモノから俺はひどい目に遭わされたってこと。この傷とかも、そう!」口に出すのさえ、おぞましい経験をした。
「なぁ、正直にいうとだな。オレはお前さんを信用してない。わかるな? ――お前さんが誠実かどうかじゃあない話だよ」
「俺はピエールから、ここへ行くように言われたんだ。信用できるとかで、判断されても困る」
そう言った途端、男はカウンターのテーブルを強く叩いた。
「あのな! お前さんを助けたいと思った一人の男を、友を、仲間をオレたちは失ったんだ! このバケモノのイヌが!」と怒鳴られた。
イヌだって? どうやら誤解されてる……。俺はちゃんと説明することにした。
「俺は――あのバケモノを倒したいんだ。どうにかして、日常に戻りたい――」
「どうだかな……!」敵意を隠さずに男は睨みつけてきた。
「バケモノを街に呼び込み、
屋敷に住まわせ、
周辺には魑魅魍魎を徘徊させ、
夜な夜な犠牲者を増やさせてるだろ?」
それと――と男は言葉を続けた。
「バケモノからもらった金で家具店とかニコニコして購入してるヤツの話は信じられないな」
――もしかして監視されていた?
しかも、敵意を向けられてる。被害者は自分だけど。
これ以上、説明してもムダだと感じた。
「――話にならない。ピエールには、伝えとく。アンタには役に立たない話ばっかり聞かされたって」俺は外に出ようとする。
「ヤツのムチは置いていけ。お前さんには使いこなせないよ」と後ろからウドに言われた。
俺はベルトがわりにしていたムチを置いた。
「お前が持つものじゃない。二度とくるな」と吐き捨てられた。こいつの客商売どうなってるの?
「これは正統な後継者に使われるのが筋さ――」
俺が使うのは認められないのか――
悔しいから出口の扉に向かって大股で歩いた。
床をわざと踏み鳴らしてやる。
「どんなことをしても知識を身に付けるんだな。暴力よりも役に立つこともある」と言われたけど振り向かない。アドバイスのつもりか?
もう二度と来ない。
喫茶店から出ようとしたら、彼女を見た。
黒に近い金髪の制服姿のメガネの少女。冷たい目をしてる。
俺は声をかけようした。
カランとドアの鐘がなり、そのまま――すれ違う。
耳元にかすかに触れる彼女の長髪がくすぐったい。
「お前を――殺す――」
台詞はとんでもなかった。
一瞬、本当に殺されたかと思ったぐらい――頭の中が真っ白になる。
扉がしまる音がした。
俺は振り返りもせずに前だけを見ていた。
俺を殺すだって? なんで? なんで?
「なんでなんだよ……ユメコちゃん!」
思わず口からもれた。
後ろを振り向いた時には、
喫茶店の扉には、看板がかけられていた。
――CLOSED
しかも扉には鍵がかかっていた。
もう二度来ないつもりだったんだ、本当だよ。
もしかしてリッチな関係でホラー仕込み 一爪琉青 @aozil_nds_knight
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