第9話 草を食べる(後編)
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動画の時間表記がカンストしている。それでもシークバーは動き、遡りつづけていた。
古のインターネットへと。
「あ、向こうでマミさんがマミってる。ということは……れーちゃん、いま何年?」
「にせん、じゅーいちねんだぞ」
「けっこう遡ったなー」
ニコニコの動画に付いていた『カオスすぎるwww』というコメントの上に乗って、真っ白い空間のなかを飛んでいく。真っ白とはいっても、ベースがブランクなだけであって、空中にはその年流行していたアニメの映像や、サイトや、ネットスラングなどがひしめきあって浮かんでおり、視覚的にうるさい。
「はわ……む、むかしはこんなものが、は、流行っていたんですね……!」
「あいちゃんは最先端の存在だから、いわゆるインターネット老人会的な知識はないんだよね。どう? あれとか。エルシャダイ。『大丈夫だ、問題ない』とかいうワードが古のニコニコで流行ってたんだよね。あとBad Apple!!の影絵の動画もなつかしいなー! 当時ドナルド教の『M.C.ドナルドはダンスに夢中なのか?』と再生数で競ってて、どっちが先に100万再生……1000万再生だっけ?そのあたりを達成するかを争ってたなあ。僕はBad Apple派だったから何回か繰り返し再生して、ランキング上昇に貢献してるような気持ちになってたよ。あっほら見て! やば! あれけいおん!の一期じゃない!? いまでもうちの押し入れにはあずにゃんのむったんが」
「はしゃぎすぎで、きもいんご」
僕は、しゅん……とした。
「あ、お、おにーさんっ。き、きもちわるいなんて、そんなこと、ないですっ! む、むしろ、い、生き生きしてて、かわいい、です……♡」
「ツンとデレの差で風邪引く」
「いちおう、たいむとらべるの、すぴーどは、あげてるが……しーくばーを、ちょくせつうごかせば、すきっぷも、できるぞ」
「えぇー、せっかくだから過去を観光したいよ」
「はげしく、どうい」
れーちゃんも昔のインターネットのふいんき(←何故か変換できない)を味わいたいらしい。僕と、銀髪幼女と、黒髪少女。三人でカオスすぎるwwwに腰かけ、インターネットの歴史を眺めた。
チルノのパーフェクトさんすう教室があった。イナイレの人気投票で五条さんが一位になった。上条さんがその幻想をぶち殺していた。松岡修造がHot knows...を歌うMADがあった。久本雅美の頭がカービィのBGMに合わせて爆発した。メルトが流れだした。てってってーも流れだした。ポケモンの人気投票でコイルが一位になりそうになった。フタエノキワミアッーが志々雄に襲いかかった。真っ赤な誓いいいいいいいいいいいいの弾幕が通り過ぎていった。
ハルヒが流行り出した。らき☆すたのもってけ!セーラーふくがMADになった。とかちつくちた。Welcome to Underground。キーボードクラッシャーがタピオカパンと叫んだ。イチローのレーザービームで人類滅亡した。ルイズ!ルイズ!ルイズ!ルイズぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
おもしろフラッシュ倉庫。冷蔵庫に牛乳があたかもしれない。使いますよ、イオナズン。飲ま飲まイェイ。巫女みこナース。っふ・・・・邪気眼(自分で作った設定で俺の持ってる第三の目)を持たぬ物にはわからんだろう・・・。小小作品。今北産業。貴様は~~~!!だから2ちゃんねるで馬鹿にされるというのだ~~~!! 吉野家ってのはな、もっと殺伐としてるべきなんだよ。
そして。
僕らは2000年前後の個人サイトの時代に足を踏み入れた。
カオスすぎるwwwから降り、ENTERを押して中に入る。MIDIのオルゴールみたいな音楽が流れだす。来場者カウンターが置かれていた。☆貴方ハ 0000000469 人目ノ訪問者サマ☆らしい。キリ番、踏めなかったな。
「このへんに、『かっこわらい』が、ありそうなきがするんご」
「そういえば僕たち、(笑)を探しに来たんだった」
同盟バナー置き場や毒吐きネットマナーへのリンクの間を縫って、適当に散策していると、Ctrl+Aで反転させたところに隠し部屋が用意されていた。アクセスしてみる。
そこには、この個人サイトの管理人が書いた犬夜叉の夢小説が置かれていた。
れーちゃんが爆笑した。
「こういうのをみると、いきててよかったとおもう」
「全然わからないよ」
「あっ! お、お、おにーさん、れーちゃん! あそこに、(笑)が……!」
あいちゃんが指さす方を見ると、確かに『見つけちゃいましたね……?(笑)』という一文がある。けっこうこのページには(笑)が多く、食材として使うには十分な量だ。
「こういうところで、とれる、かっこわらいが、いちばんうまいぞ」
「秘境で採れたわけだからね。よーし、回収完了!」
とりあえず僕たちは、トップページでweb拍手を押してその場を去った。
◇◇◇
「そもそも、どうして(笑)から育てて草にする必要があるんだっけ?」
「そのへんに、はえてる、『くさ』は、れぷりか。だれかが、つかった、ことばの、もほうひんでしかない。『かっこわらい』から『くさ』にまで、そだてあげることで、れきしのふかみをもった、いっきゅうひんの、あじわいになるんご」
「で、で、でも、れーちゃん? ど、どうやって、その、(笑)を、育てるんですか……?」
「『かっこわらい』が『くさ』になるまでの、うつりかわりのれきしを、『かっこわらい』に、たいかんさせる」
れーちゃんがシークバーを操作して、時空を僕らとともに移動する。2005年のあたりに戻った。
「草になるまでの変遷を体感、か。じゃあ、僕らがいまさっき見てきたインターネットの歴史を、今度は遡るんじゃなくふつうに視聴すればいいんだ」
「だめ」
「えぇ……?」
「ぼくたちは、ものすごいすぴーどで、じかんを、いどうした。でも、『かっこわらい』には、いままでのにじゅうねんかんを、にじゅうねんかんのままで、じっくりことこと、たいかんさせたい」
「そうか。過ぎる時代を千倍速で眺めても、自分の身に起きたこととして実感することはできない。(笑)を草に変えるためには、早送りもスキップもせず、二十年の歳月をそのまま体験させないといけないんだね。でも、どうやって? 二十年以上も(笑)の熟成を待つの、無理じゃない?」
れーちゃんは、2005年のインターネットを歩き出した。僕とあいちゃんはよくわからないまま追う。
「まあ、むりだぞ」
「無理じゃん!」
「そこで、せんもんかに、たよるんご」
ついていくと、そこは2005年のアダルトゲームコーナーだった。
対魔忍アサギの主人公・井河アサギが佇んでいる。
「何で」
「たいまにんさんの、ねっとみーむのちからで、『かっこわらい』を、かんど3000ばいにしてもらう。そうすれば、ぼくたちが、はやおくりで、2022ねんに、もどったとしても……かんかくのとぎすまされた『かっこわらい』がみてるせかいは、すろーもーしょんなので、ぷらまいぜろ。にじゅうねんかんを、そのまま、けいけんしたことになるんごねぇ」
「??????」
「たいまにんさん、おねがいします」
アサギさんの両腕が触手となって、(笑)に襲い掛かる! (笑)は「んほぉおおおお♡♡♡」と喘ぎ声を上げながらビックンビックン痙攣した! 快楽に溺れ、(笑)の体感時間が引き延ばされていく!
「すべてが間違ってて草」
こうして僕たち一行は倍速視聴によって2022年に帰還し、草を手に入れたのだった。
◇◇◇
帰宅。
道中でふつうの草も採取してきた。食べ比べをしてみようかな。
キッチンに立ち、エプロンをつけて腕をまくる。アドバイザーにれーちゃん、見学者にあいちゃんがそれぞれ見守ってくれる。
よし。
草のグリーンサラダをつくるぞ……!
まず、草をよく洗う。草によっては汚い笑いだったってこともあるからここは念入りに。それから冷水に浸けてシャキッとさせ、ざるで水を切り、食べやすい大きさに手でちぎる。れーちゃんは特にお口が小さいから、細かくしてあげよう。
† † □ - ─ │
次に、草の水気を切る。水っぽいとおいしくないし、湿っぽい笑いは楽しくない。サラダスピナーを使ってぐるぐる回して遠心力で水を切ろう。
クルクルクルクルクルクルクルクルクル
, ゛彡≡ ミゞ
( (( ₍₍草⁾⁾ )) )
ヾヽミ 三彡, ソ
クルクルクルクルクルクルクルクルクル
冷蔵庫で一時間程度冷やしたら、ドレッシングをよく和える。
器に盛りつけ、ちょっとした辛味を出すために香辛料のブラックジョークを振って完成!
「かんたんな、れしぴだし、あどばいすすることも、なかったんごねぇ」
「はぅ……お、おにーさんの、手料理……♡」
「ふつうの草でつくったサラダも一皿用意したよ。僕とあいちゃんはふつうの草も初めてだから、まずはこっちから食べてみよう」
「あ、あ、ありがとうございますっ。い、いただきます……!」
「召し上がれ。さて草のお味はと……」
ふつうの草のサラダを食べる。思わず笑みがこぼれた。なんだろう、楽しい味だ。でもそれだけだった。れーちゃんも、わりと真顔で食べている。あいちゃんは……なんかすごい満足そう。この子僕の料理なら何でもいい説あるな。
「あんまり感動なくて草。それじゃ、本場の草をいってみようか……」
(笑)から、(藁、(warai、(w、wwwwwを経て、草の姿になったネットスラング。
歴史の深みのある味とは、どういったものなのか。
実食……!
「しゃく……」
一口、食べた、途端。
目の前が情報で埋まった。
ニコニコ動画に大量のコメントが流れる時のように、視界が草で埋め尽くされ……
それが、晴れた時。
僕はなんだかめっちゃ楽しくなってきていたwwwwwwwwwwwwww
「このサラダwwwwwwwwwwwおいしいねwwwwwwwwwwwwwww」
「うまいんごwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「おwwwおwwwおいしいですっwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「うますぎてwwwwwwwうまになったわねwwwwwwwwwwwwwwww」
「れーちゃんのギャグwwwwwクソワロタwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「でwwwでもwwwwどうしてこんなwwwwwww」
「あいちゃんwwwwwwwwどうしたのwwwwwwwwwwwwww」
「いwwwwいえwww藁要素とか草要素とかwwwwwwwどwwwどこにいっちゃったのかなっwwwwwwwてwwwwww」
「それはだなwwwwwwwwwwwwww」
「よっwwwwwwれーちゃん博士wwwwwwwwww解説よろしくwwwwwwwwwwwwwww」
「はいてんしょんなときにwwwwwwwwwwwwこのじょうたいになるだけでwwwwwwwwwwwwwwwwちょっとれいせいなときはwwwwwwwwwwwwwwわらとかくさになったりするんごwwwwwwwwwwwwwww」
「いwwwwいwwww今はサラダのおいしさに感動してるからこうなってるだけwwwwwwwってことですかwwwwwwww」
「なるほどwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
「すべての『わらい』のwwwwwwwwwwwねっとすらんぐのwwwwwwwせいしつをあわせもったwwwwwwwwwwwwwwwwそれこそがwwwwwwwwwwwwwwwww」
「僕たちが育てた『草』ってことなんだねwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
こうして三人で大爆笑しながらサラダを食べたのであったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwこの草あぶない草じゃんwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwおハーブwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww草生えすぎて大草原不可避wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwテラワロスwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
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