第5話 ツイッターバードを食べる
イーロン・マスクさんがTwitterのロゴマークである青い鳥を使った焼き鳥の屋台をやっているというので行ってみると、夜にもかかわらず長蛇の列ができていた。
「うわ、れーちゃん、めっちゃ並ぶけど」
「れつに、ならぶという、しなりおを、すきっぷするんご」
「シナリオスキップ機能あるんだ」
行列をなかったことにして屋台の暖簾をくぐると、イーロンさんが快活な笑顔で「ヘイ,ラッシャイ!」と迎えてくれた。手元ではジュウジュウとツイッターバードが焼けている。炭火焼鳥の香ばしい匂い。
「えーと、どうするれーちゃん。僕はとりあえず、ねぎまと、つくねと、ハツお願いします」
「ぼんじり、ふりそで、やげん、しらこ」
「希少部位ばっか頼むじゃん」
Elon Musk @elonmusk
Here you are
午後8:26 · 2022年11月13日·Twitter for iPhone
「おお、すぐにくれた。ありがとうございます」
Elon Musk @elonmusk
My pleasure!😄
午後8:27 · 2022年11月13日·Twitter for iPhone
「マイプレジャーってどういう意味だっけ」
「どういたしまして、ってゆういみ」
「イーロンさん、感じが良いなあ。Twitter焼いて食べてるけど」
お代を払った。4.4ドルだった。そういえばイーロンさんは440億ドルでTwitter社を買収したんだっけ。世界長者番付第一位はすごいなあ。
後ろで並んでいる人たちの迷惑にならないように、屋台を離れる。イーロンさんが「Happy tweeting!😎」とリプライを送ってきたので、いいねとRTをした。ついでにフォローもした。
少し離れた位置で屋台と行列を眺める。
この場で食べることにする。
「さ、そろそろ食べようれーちゃんってもう既に半分以上食べ終わってる……」
「もぐむぐ」
「おいしい?」
「うますぎて、うまになったわね」
僕もうまになっていくか。
まずは、ねぎま……!
「もぐっ……はふっ、はふっ」
焼きたてのツイッターバードのもも肉からあふれる……肉汁! タレの甘じょっぱさと炭火焼のかぐわしさが合わさって最強に見える。
そして、ドギツくなくて受け入れやすい味だ。従来、ツイッターバードはハフポスト味やBuzzFeed味、政治的ハッシュタグ味などの人工の味付けがなされることが多かったのだが、イーロンさんの焼きツイバードはその要素を極力排除しているらしい。その結果があの大人気だ。こだわりのなせるわざだなあ。長ネギもとろとろでおいしい。
次は、つくね……!
「見た目がやばいよなあ」
なにせ、青色の鶏団子だ。ツイッターバードをぐっちゃぐちゃの挽き肉にして、丸めたものを串刺しにしている。すごい猟奇的なものを食べてるような気がしてきた。
ひとつ、歯で串から抜いて一口で食べる。うん、おいしい。ん? このコリコリ感は、軟骨のかけらも入っているのかな。
……いや、ちがう。この食感はTwitterの認証バッジだ! 俗に公式マークとも呼ばれるあれだ! 噛むたびに認証されていく感じがある。そうか、イーロンさんはもはやTwitter社の所有者。認証バッジを作りまくることだってできちゃうんだ。なんて贅沢な。
よし、最後は、ハツ……!
「もぐもぐ、もぐ……。もぐ……?」
あれ? なんだか、普通かも。確かに変なニュースサイトとかの化学調味料は使われていなくて、食べやすいのだけど……。
Elon Musk @elonmusk
Twitter hearts never change
午後8:33 · 2022年11月13日·Twitter for iPhone
「わっ! いつの間にイーロンさん、そこにいたんですか!?」
「きょうは、もう、みせじまいしたそうだぞ」
Elon Musk @elonmusk
Without user, twitter is nothing
午後8:34 · 2022年11月13日·Twitter for iPhone
「Twitterの〝ハート〟は変わらない。ユーザーなくしてツイッターは、ない……そういうことですか。だからあえて、鶏の心臓であるハツには、画期的な変更を加えなかった。いいえ、変えられなかったんですね。ユーザーあっての、ハートあってのTwitterだから」
「いいはなしだなー」
イーロンさんが😎の顔文字だけを表示して去っていく。新時代のトップを駆けるひとりの、その行く末を想った。正直に言って、Twitterをしっちゃかめっちゃかにしているという点では、手放しで信用することができない。だけど今のところ、イーロン印の焼き鳥は、かつてなく、旨い。
「これからTwitterはどうなるんだろうね」
「わからないんごねぇ。でも、きっと、わるくはならないぞ」
「そうだったらいいね」
「いざとなれば、ますとどんもある」
「あそこはちょっと」
他愛もない話をしながら、僕とれーちゃんは家路につくのだった。
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