第4話 5ちゃんねらーを食べる

 ショッピングモールに行ったらイルミネーションがフルで光っていて、ハロウィンが終わったら即クリスマスムードだなあと思うなどしていた。終わるのか、秋。僕はまだ、秋を楽しんでいないのに。Twitterではよく「今年、秋がないんだよなぁ……」「その秋、消えるよ」「令和ちゃんバグってる」というような意見がある。うかうかしてると、一瞬にして冬が来て、クリスマスが過ぎ、一年が終わってしまいそうだ。

 それは避けたい。


 秋、やっていこう。

 食欲の秋を。


 僕は釣具を携えて、インターネットの海辺へと向かった。




     ◇◇◇




 曇り空の下。

 巨大掲示板群『5ちゃんねる』の厨房板に来た。ニュー速VIPでもよかったが、あそこは賑わいすぎる。騒がしい場所は得意じゃない。

 予想通り、厨房板は閑散としている。ここはもともと5ちゃんねるにおいてスレ立ての練習に使われる、ゴミ集積場みたいな掲示板だ(調理場の「厨房」とは関係がない)。今日も「テスト」というタイトルのスレッドが大量に浜辺に打ち捨てられていた。来たのは久々だが、相変わらずだなあと思う。


 遠くには僕以外にも釣り人が見える。でもきっと、ろくに釣れていないだろう。僕もたぶん、何の釣果も得られませんでしたって言いながら帰ることになると思う。念のため簡単な調理具は持ってきたけどね。


 テトラポッドのある堤防に立つ。

 見渡す限りの5ちゃんねる。

 さて、釣るか。


 まず、釣竿にリールを装着する。次に糸をセット。それから仕掛に糸を結ぶ。竿を伸ばしたら、いちおうこれでよくイメージされるような釣竿の形になった。

 で、肝心の釣りエサを付けなくちゃいけない。仕掛の鈎を指先で持ち、逆の手でスレタイを持つ。今回使うスレタイは『【画像】こ の 美 少 女 エ ロ す ぎ ワ ロ タ』にした。このスレタイの甘い匂いに5ちゃんねらーは寄ってくるわけだ。まあでも、こんな釣り針がでかすぎる(釣りであることがわかりきった)スレタイにかかるねらーなんていうのは、だいたい脂ものっていなくて不味いのだけど。

 スレタイの端に鈎を刺す。鈎はJ字型になっており、このJに5ちゃんねらーをひっかけて釣る。鈎をスレタイの中に刺し進め、鈎先をちょこっと出した。ちょうど「エ ロ す」のあたりから鈎の尖端が見えるようなかたちだ。


 よし、これで釣具の準備は完了。

 あとは竿を構え、仕掛を投げるだけ……なのだけどいつの間にか隣にれーちゃんが立っていて僕はびっくりした。


「わっ!? いたの!?」

「いんたーねっとの、ようせいだからな。いんたーねっとの、どこにでもいるんご」

「れーちゃん、まだ小さい子どもなんだから、こんなゴミだらけの臭い場所に来ちゃダメだよ。女の子が見ちゃいけないものもここにはあるんだよ」

「このまえ、ひまつぶしに、ふぁんざで、ししけっそんかいらくおちものをよんだが?」

「絶望」

「ぼくも、つりはともかく、いんたーねっとのうみを、ただただ、ながめるのがすきだ。というわけで、となりにいてやろう」

「……まあいっか。じゃ、見ててね。釣れないだろうけど」


 竿をしならせ、仕掛を投げる。向こうで海面に着水した。スレ立て完了だ。


 しばらく、ふたり黙って海を眺める。


 …………。


 静かだ……。


 寄せては返す……


 波の音。


 ……そういえば、秋を楽しむ目的でどうして僕は5ちゃんをチョイスしたんだっけ。


 秋なら、こう……紅葉を見ながら焼きいもとか、海の幸にするにしても秋刀魚とか……もっとあったような……。


 …………。


 …………。


 静かだなあ……。


 水平線が……遠い……。


 白い曇天と、薄い海の色が、あいまいに溶け合って……


「おい、にーと、かかってる」

「えっあっきた! 嘘でしょ!?」


 僕は急いで竿を握り直し、糸を巻く。リールが回転、そして……釣れた!

 イキリのいい5ちゃんねらーだ!

 モナーのAAで形作られた姿のねらーが、ぴちぴち暴れながらレスを吐く!




2 名前:名無しさん 2022/11/06(日) 15:54:29.91 ID:aX1CkKBU

美少女工口画像、キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

詳細うpキボンヌ

すでに全裸待機ですが、何か?

zipでくれ!

もし釣りだったら、逝ってヨシ(藁




「…………」

「……えぇ…………」


 シーラカンスが釣れたんだけど……。

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