第2話 ┌(┌^o^)┐ホモォ…を食べる
令和4年、10月27日……
僕はバーチャルYouTuberの配信画面を眺めていた。
にじさんじというバーチャルライバーのグループみたいなのがあって、僕はそこ所属のVTuberを何人か推している。某ふわふわどらごんがーるとか、某公式美少女錬金術師とか、某100万点の笑顔をくれる一般人お嬢様とか。画面では、スプラトゥーン3を実況プレイ中の男性VTuberがリッターにキルされて野太い断末魔を上げている。今日もチャイチャイはかわいいね。くすくす
「このぶいちゅーばー、へんなかおだな。おまえはこんなやつがすきなのかー?」
「可愛いからね」
「かわいくは、ないぞ……?」
隣で画面を覗き込みながら小首を傾げるのは、銀髪色白の幼女でありインターネットの妖精、れーちゃん。フルネームは『よん・れー・よん・のっとふぁうん』というらしい。今日は干したてのちっちゃなシーツみたいな真っ白のワンピースを着ている。
「チャイチャイは可愛いよ! 見なよこの濃すぎる化粧顔を!」
僕はまくしたてる。「筋肉ムキムキの女装マッチョエルフだし承太郎の声真似が上手いくらいに声も太いけど可愛いんだチャイチャイは、あっチャイチャイっていうのは愛称でほんとうは花畑チャイカといってね、彼は誰よりも頑張り屋なんだ、そこが可愛いんだよ、卓越したボケのセンスを持っていて企画型配信ではボケすぎて暴走することもあるけどほんとうは繊細な心の持ち主だから後で暴走しすぎを反省したり文字数」
オタク特有の早口で喋っていたら途中で声が出なくなった。れーちゃんのいんたーねっとぱわーにより文字数に制限をかけられてしまったのだった。
「おまえうるさいなー。あ、でもこのぶいちゅーばー、へんなかんじがおもしろいんごね」
「そうなんだよ! そ文字数」
「ぼくも、すぷらとぅーん、やりたいな。あとで、げーむのなかに、はいろうかな」
さすがインターネットの妖精、『ゲームをやる』の意味からして僕らとは違う。
僕らでふたり、画面の向こうでチャイチャイが「死になァ……!」と声を荒げてリッターをキルし返しているのを眺めていると、足下に何か気配を感じた。下を見る。
┌(┌^o^)┐がいた。
「ギャ!? 何だこいつ」
┌(┌^o^)┐ホモォ……
「あ。┌(┌^o^)┐だ。ぜつめつしたかとおもっていたが」
「れーちゃん、こいつって、確か……」
「うん。おとこどうしで、くんずほぐれつしているのを、みるのがすきな、いんたーねっと・くりーちゃー」
「もうタイムラインでも滅多に見なくなった┌(┌^o^)┐が、どうしてここに……」
れーちゃんが┌(┌^o^)┐を人さし指でぷにぷにと突きながら、推測を口にする。
「おとこのおまえが、おとこのぶいちゅーばーを、かわいいかわいいゆうから、えさだとおもったんじゃないか?」
「僕のこれはホモじゃないけど!?」
Σ┌(┌^o^)┐ホモォ!?
「ほら、おおごえあげるから、┌(┌^o^)┐がびっくりしちゃったぞ」
「知らないよ。それにしても、四つ足で、見た目がちょっと気色悪いなあ」
「でも、おいしいよ」
「食べるんだ」
:;┌(┌^o^)┐;: ホ、ホモォォ…
「ちょっと震えてるじゃん。食べるなんて可哀想だよ。窓から逃がしてあげよう」
「まず、にえたぎるあぶらをよういします」
「揚げて食べる気満々なんだね」
-=三┌(┌^o^)┐ホモオーーッッ!!!!カサカサカサカサ
「あ、逃げる」
:;┌(┌^o^)┐;:ホ、ホモッ… 【♂×♀】
「NLの同人誌で行く手を塞いだ!?」
【解釈違い】 Σ┌(^o^┐)┐ホモッ!? 【♂×♀】
「解釈違いの二次創作で退路まで封じた! れーちゃんからは逃げられないのか……?」
【解釈違い】 …┌(^o^┐)┐ 【♂×♀】
【解釈違い】 ┌(┌^o^)┐… 【♂×♀】
【解釈違い】 ┌(^o^)┐ 【♂×♀】
「まずい! 読者の方を向いたぞ。第四の壁を突き抜ける気だ!」
「させないんご」
れーちゃんが後ろから弾丸のように僕の脇を通り抜ける。目にもとまらぬ速さ。小さな手に握られた子ども用包丁が閃く!
ヒュ パ パ パ ッ
┌┌ ┐┐ ( o) ^^
「えっ一瞬で解体された……」
「┌(┌^o^)┐は、じぶんがしんだことにもきづいていないはずだぞ」
「すご」
「くるしみは、さいしょうげんに。ぼくらはいのちをいただくのだからな」
れーちゃんが料理人の手さばきで( o)の下ごしらえを始める。食べるうえでえぐみとなる地雷を丁寧に取り除き、一口サイズに切る。下味に暗黒微笑を振ってから、ふぁぼをまぶしていく。
「それから、あぶらへ、どーん!」
フジョシュァアア、と( o)が揚げられる音。熱された油のなかで、まぶされたふぁぼが衣となって、ふぁぼ色(黄色)に色づく。
一方で、二人目のれーちゃんはというと、┌┌ ┐┐を調理していた(れーちゃんはコピペで増殖できる)。こっちのれーちゃんは本体のれーちゃんと比べて常に眠そうだ。うとうとしながら┌┌ ┐┐を鍋で煮ている。香ばしい匂いが漂ってきた。
「れーちゃんたち、僕も何か手伝おうか?」
「いらん。にーとは、にーとらしく、そこでぼんやりしていろ」
「ニートじゃないよ」
「じゃあ、にじゅうななさいしょくれきなし」
「ニートでお願いします」
煮込みには時間がかかるかと思われたが、れーちゃんが演出スキップボタンを押すことで、一瞬にして調理終了。
ここに┌(┌^o^)┐料理が完成した!
「おお……! 美味しそう! いただきます、れーちゃん!」
「えっ。にーとに、しょくじをするけんりって、あるんだっけ」
「ごめんなさい」
「じょうだんだぞ。ぼくだけは、にーとに、たべさせてあげるよ。ほかのひとなら、なかまはずれにするところを、ぼくだけは、にーとをみとめてあげる」
「れーちゃん様……!」
人心掌握術を使われた気がするけどそうだとしても構わない……一生ついていこう……。
~本日のメニュー~
( o)のふぁぼカツ
┌┌ ┐┐と性癖の煮凝り
^^のさっぱり蒸し
実食。
まずはふぁぼカツから……!
「む……!」
衣に歯を立てた瞬間、なつかしい、と思った。Twitterの「いいね」にあたる機能が「
そして( o)からあふれる肉汁! ┌(┌^o^)┐は常に新たなホモを求めており、体中にぎっしりと欲望が詰まっている。特にこの個体はドギツいホモを食べ続けてきたらしく、一口だけで満足してしまいそうなほどにこってりとした味わいだ。たとえるなら、強火なオタクのオタ語りを一方的に聞かされている時のような、うんざりしつつも楽しいあの感覚に近い。
続いて、┌┌ ┐┐と性癖の煮凝り……!
一口食べて、うぇ、となった。苦い。いや、えぐい……? というか、えげつない……! これ、いったいどれほどの性癖と一緒に煮込んだんだ? これはちょっと、not for meかもしれない。しかし、そのなかにも見出せるほんの少しの食べやすさは何だろう?
「いっしょに、にこんだせいへきのなかに、おまえもすきなせいへきが、ひとつくらい、あったのでは?」
「今回は何の性癖を使ったの?」
「くびしめ、ねとられ、はらぱん、しょくしゅ、さんらん、ぜんらどげざ」
「……あー……」
なるほどね。
「きも」
「キモくないよ! 僕はキモいニートじゃないよ! 性癖に貴賎なし!」
最後に、^^のさっぱり蒸し……!
一口食べた瞬間、爽やかさが口のなかに広がった。思わず(^^)みたいな顔になってしまう。あぶらっこいカツ、苦みのある煮凝りの後に、この軽やかさ……! すっきりと食事を終えられるようにというれーちゃんの優しさを感じるなあ(^^)!
「おいしかったんご?」
「美味しかったよ! さすがれーちゃん!」
「ふふん。ほめろ」
「れーちゃん最高! れーちゃん天才! れーちゃん可愛い!」
「えっ……おまえ、ろりこん?」
「褒めるって難しいね」
「まあ、いんたーねっとはろりこんだらけなので、いまさら、きにしないが……」
「言われてますよ皆さん」
「いいんだぞ。ふじょしが┌(┌^o^)┐をうみだしたように、いんたーねっとは、よくぼうでうずまいているくらいが、ちょうどいいのだ」
れーちゃんはそう言うと、てくてくとTwitterの方へ歩いていく。「んしょ」とTwitterのなかに飛び込むと、0時13分現在トレンドに上がっている『#おまいら15年前何してたよ』というハッシュタグをタップし、タイムラインを泳ぎ始めた。僕もついていき、ツイッタラーたちの懐古ツイートを眺める。
時間とともに死語になったり、風化していくものも、忘れないでいたいと思う。あの頃しか味わえなかった面白味があった。覚えていたい。すべての過去は、かつては今だったのだから。そして、だからこそ文字数
「ちょっとれーちゃん! かっこよくまとめに入ってたのに!」
「わははー」
「わははーじゃない!」
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