毒を含んだ霧の立つ世界、シェルターの中で暮らす人々の物語です。
主人公は、過去の遺産である写真をもとに、依頼者の望み通りの絵を描くことを生業とする青年。彼が一人の子供に出会うところから物語が動き始めます。
本作、背景世界の描写精度がとにかく凄いの一言です。
立ちこめる臭いや生理現象、空気感や光のシルエット。万物の描写が、乾いた世界の中の暮らしに実感を与えてくれています。
5000字と少々のシンプルな短編ではありますが、中に息づく濃密な感情のうねりを感じます。それを生み出しているのはまちがいなく、「生の臭い」ともいうべき鮮烈な手触りではないかと思います。
※※ 以下は純粋にレビュー者の妄想です ※※
「AIが生成した2枚の画像をモチーフに短編を書く」企画の応募作であることを考え合わせると、「写真をもとに絵を描く」主人公の生業は、AIによる画像生成のメタファーかもしれません。
主人公の業とAIの業が、作業としては同質のものであると考えた場合……「人間が『それ』を行うことの意味」が、あらためて立ち上ってくるのかもしれません。
突如として、毒を持った霧が発生するようになり、生き残った人間は地下シェルターで暮らすことになった。主人公は、そんなシェルターで絵を描く仕事をしている一人の青年だ。文明崩壊と共に擦り切れ、色褪せていく写真を基に、半裸の女性ばかりを描いていた。
そんな主人公のもとに、食料などの必要な物資を運ぶ男が現れ、荷物を置いていった。しかし、運び込まれたのは必要品だけではなく、子供が一人取り残されていた。主人公は子供が嫌いだった。
霧のない内に、子供を返そうとする主人公だったが、その子供が捨てられ、霧の中で見つかったことが判明する。主人公は、子供をどこに捨てようか迷ってしまうのだが……。
霧の発生のたびに鳴り響く警告音。
孤独な絵描きのもとには、文明の豊かさを示す写真。
その写真は徐々に擦り切れ、やがて無価値になるだろう。
切ないラストが、胸を打つ作品でした。
是非、御一読下さい。