第7-3便(第2航路:最終便):未来へのステップ
その後、私たちの気持ちが少し落ち着いてきたところで、ライルくんが神妙な面持ちでミーリアに問いかける。
「単純な疑問なんだが、市長の秘書ってそんなに権限があるものなのか?」
「……まぁ、それにはちょっと裏技を使ったんですよ。だから表向きには貸切船に関する全てを市長が決定したということになっています。あ、このことは私たちだけの秘密ですよ?」
「裏技とは?」
「それは言えません。でも色仕掛けや賄賂などではありませんよ?」
ミーリアは満面の笑みでそう言い放つと、それっきりその件についてライルくんに何を訊かれても答えることはなかった。
ただ、根回しの得意な彼女のことだから、きっと色々なアプローチ方法を持っているんだと思う。まぁ、船の整備くらいしか能がない私じゃ、どうあっても彼女の真似は出来ないだろうけど。
「それでシルフィ。あなたにはその貸切船の操舵手を任せたいんだ。今日はそのことを伝えにここへ来たってわけ」
「っ!? 私がそんな重大な役目をっ?」
思いも寄らなかった申し出に、私は卒倒しそうになった。恐縮しすぎて全身から冷や汗が滝のように吹き出してくる。だって操舵手を務めるということは、市長さんたちの命を私が預かるということを意味するから。
もちろん、普段から私は船の整備や運航をしているから、すでに毎日のようにたくさんのお客さんの命を預かっている。その点では同じだ。
ただ、社会への影響力という切り口で考えると、どうしても同列に扱うわけにはいかなくなる。なぜなら、もし市や国の政治を
そうしたことを思うと、私に掛かるプレッシャーは半端ない。
するとそんな思い悩んでいる私を、ミーリアは凛とした表情で真っ直ぐ見つめてくる。
「シルフィだからこそ信用できるし、信頼もしてる。そして今の反応を見て、私はむしろ安心したよ。この重責を自覚してくれている人でないと、務まらない仕事だから」
「期待してくれて嬉しいな。でも正直、不安の方が大きくて……」
「大丈夫。私もフォレスもサポートをするし、ほかのたくさんの人たちにも協力してもらえるように
ミーリアはたった今まであんなにも真面目だったのに、急に冗談交じりのおちゃらけた調子になった。しかも『根回しのミーリア』って彼女自身が不満を漏らしていたふたつ名なのに、内心は結構気に入ってたのかな?
いずれにしても緊張した空気が不意に緩和されたからか、私は
「……ふふっ、あはははっ! そうだねっ! うん、私、やってみるよ!」
「ありがとう。それと貸切船の運用がない時は、今まで通り整備師として仕事を続けられるから安心してね」
「あ、でも私が貸切船の操舵手になってしまったら、それを担当する日に船を整備する人が――」
そこまで口にしたところで、私は色々と悟ってハッと息を呑んだ。
すると同じタイミングで彼自身もそのことに気付いたようで、深い溜息をつきながら肩をすくめる。
「俺か……。そうか、俺のソレイユ入社はフォレスさんにとってまさに『渡りに船』だったわけだな」
「ふふっ! ライルさん、さすがうまい返しですね。――でもっ! そういうわけですから、申し訳がありませんが私はシルフィさんをあなたに渡しません」
「お前こそ、変な返しをしなくていい……」
ライルくんはおちゃらけたミーリアに対して、再び深い溜息をついた。もしかしたらこのふたりは、いいコンビなのかもしれない。
(第2航路:運航終了/第3航路へつづく……かも……!?)
わたしの船 ~魔術整備師シルフィの往く航路(みち)~ みすたぁ・ゆー @mister_u
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