業務内容:幽霊屋敷探索(軽作業)
目々
後日改めてご連絡いたします
業務内容としてはね、すごく簡単だよ。幽霊屋敷に行って、二時間室内をうろついて、何かしらの品物を一つ持ち出してきてもらう。それだけ。
市役所の方で説明してもらってるのにまた同じこと聞かされてもなあって顔してるね。分かるよ。でも一応ね、バイトでも何でも形式的なものって必要なんだよ。ことにお役所仕事って言うか、地域奉仕とかそういう系の仕事だからね。大丈夫ちゃんと給料は出るよ。奉仕って言い方がね、どうもね。警戒するよね何かこう、踏み躙られそうでさ、色んなことを。
とりあえずお茶も来たからね、飲んでくれて構わないよ。うん、お茶持ってきたのは俺の甥。暇なときに手伝いに来てくれてるんだよね。
名前ね、俺は三原と言います。三原泰三。うちはね、農家やってんだよね。俺と甥っ子以外はみんな今外出てんの。だから手の空いてる俺が面接してってだけで、楽にしててくれていいよ。偉くもなんともない、ただの暇なおっさんだから。そもそも書類提出も面接も役所でもうやったでしょ。あれでほぼ決まりみたいなとこあるからね。
じゃあ何でわざわざ来てもらったかっていうと、俺が家主だからです。幽霊屋敷のね。
土地も建物も俺の名義。だからまあ、権利があるわけよ。自分の
ちなみに君、幽霊屋敷は入ったことある? そう、駅前から病院坂ぐーっと上って、ケーキ屋と雀荘の廃墟の後ろにあるやつ。夏頃になるとアホの中学生とかが庭先たむろってたりして、普通に近所の人に通報されたり怒鳴られたりしてる。怖いからね、あの辺の年寄り。八十過ぎてもすごい大声出せるもん。
俺が言うのも何だけど、この辺じゃ有名でしょう。人めっちゃ死んでるとか、入ると祟られて一族郎党不幸になるとか、幽霊が夜な夜な庭先をうろついてるとかそういうやつ。すごいよねえ。俺の親父なんか昔住んでたのにさ、そういうところでも空き家になった途端にこうだもの。多分近所の五木のババアがあることないこと騒いだせいだと思うんだけどね、ひどい話だよ本当。入ったくらいで祟られんなら権利書持ってる俺はどうなるんだって話だし。庭先うろつくのは多分半分くらい親父だよ。庭先の木の様子とか見に行ってるから。ビワとか柿とか植えてんだよね、戦後の名残でさ。まめに見に行かないと虫とか鳥でえらいことになるから……。
で、その幽霊屋敷ね。そこがね、なんかこう、迷路っていう感じになっちゃって。
そうそうダンジョン。君ゲームとかやる方? いや結構さ、やらないひとだと分かんないんだよダンジョン。迷宮って言うべきなんだろうけどね、それだとこう、怖いでしょ。出らんなくなりそうでさ。迷って出られないってのはね、実際あるんだけど。大丈夫安全だから。そうじゃなきゃ俺だって呑気に市役所に相談なんかしないよ。もっとこう、手っ取り早く業者に頼んで更地にするよ。そんな危険物だったらね、さすがにさ。
じゃあ何で
きっちり二時間。田舎の一軒家だからね、そんなに広い家じゃないはずなのに、室内に入って二時間経たないうちはどうしても外に出られない。廊下が延々続いたり、和室の襖を開けたらまた和室だったとか、そういう具合でどうにもならない。窓も割れないし玄関も裏口も開かない。壁蹴ろうが何しようがどうにもならないし、当然スマホも通じない。
去年の春先だったかな。うちの親父が庭先の掃除やるついでに、一応不審者とか死んでないか見とくかって家の中入ったんだよね。そんで二時間出られなくなった。二時間家の中で色々試して全然駄目で、玄関のとこに座り込んでもう気が狂うか死ぬしかないかなって、台所から包丁持ち出して構えたまんま扉を眺めてたら、目の前でばーん! って勢いよく戸が左右に開いたんだって。自動ドアを悪ふざけでフルパワーにしたみたいだったって、真っ青になりながら言うことじゃないと思うんだよね俺。自分で自分の発言の信憑性を損なうあたり、そういうのが親父の駄目なところだと思うんだよね。ねえ?
でね、一応ほら、そういうことがあったからさ。地域住民の生活の安全が脅かされなくはないとか、治安がどうとかがあるからね。放っておくのもよくないねっていうのを友人と話したんだよね。そう水瀬さん。役所の方で担当やってるからね、君の面接もあいつだったでしょ。幼馴染なんだよ。田舎らしいだろ、こういう人間関係がなんやかんやしてる感じ。
ともかくお役所の人たちと相談して、とりあえずどう対処すべきかっていうのを考えて、こういう募集を出すことにしたわけ。被験とはまた違うけど、なんだろうな、こういう感じのとこなんですよって報告を出すためのデータ集めみたいなやつだよ。庭先が安全なのは親父が毎年果物取ってきて証明してるから、室内だけどうなんだって話だし。うっかり取り壊してもっとえらいことになったら嫌じゃん。金もかかるしね、業者頼むにもさ。
だからあれよ、君がすることは清掃活動に毛が生えたようなもんなんだよね。お役所経由で頼めるんだから危険度だって知れてるわけよ。守秘義務はそりゃあるけどね。けどそんなんどのバイトだって一緒だしね。
どうかな、質問とか……あ、そうね。何持って来てもいいです。ていうか、何か持ってこないと出られないみたいなんだよね。親父も台所の包丁持ち出してきたしね。二時間経っても手ぶらだと出らんないっぽい。これはね、水瀬が入ったときに試してた。あいつ頭いいからな。だから時間だけの条件かどうかってのは実験済みなんだよ。安心して。
マヨイガみたいなもんですかってシブいとこ出してくるねえ。甥っ子も同じこといってたな、あいつなんか大学でそういうの勉強してるらしくてさ。君もそういうの好きなの? 俺知らなかったもん、甥っ子に教えてもらうまで。
何でそういう仕組みになってるかは分かんないけど、そうなってんだよね。馬鹿みたいな言い方しかできないけど。物を持ち出すと家を出られる。んで、そうやって室内の状況についての報告と物品のサンプルが増えると役所の連中も助かるんだよ。
二時間家の中でうろうろして、品物を持ち出して、担当者へ渡すので一区切り。そうするとお金がもらえる。前に品物渡さずにちょろまかしたのもいるけどね、まあ、
ちなみに幽霊屋敷呼ばわりされてるんだけどさ。幽霊はね、正直微妙なんだよ。
一応目撃報告はあるんだよ。二時間いた間に二階から床どんどん踏む音が聞こえたとか、客間の襖が開いてて腕だけ手招きしてたとか、そういうやつはたまにある。あるけど、別にそれだけだからなあ。手癖が悪くない限りは実害もないしね。腕見た人なんかその後も継続して仕事請けてるからね。とても元気だよ、篠田さん。畑もやってるから、先日じゃがいも貰ったもの。
どうだろう、これでまだ質問とかある?
……あ、そうね。物品はね、ちょっと面白いんだよ。
基本は市役所に預けたり、そこから向こうが適切な相手に回したりしてるんだけどね。印象深いやつなら幾つかあったよ。
画像これね、今スマホに出してるやつ。見てもらえばわかるけど、キャラクターものなんだよね。小学生の女の子とかが持ってるような手鏡。これ、鏡面覗き込むと誰かの顔が映ってるんだよね。その顔もうちの親族じゃ多分ないし、そもそもこんな鏡があった覚えもないって親父が言ってた。その辺も妙なところなんだよね……これ、この見るからに古い櫛とかね。これもね、髪を梳くとぼろぼろホチキスの針が落ちてくるんだよね。意味分かんないでしょ。櫛自体には見覚えがあるらしいけど、ホチキスの針は何にも分からない。危ないしね。
あとね、これ。実物だよ。これは大体面接来た人に見せてるんだけど、ティーカップだよね。見りゃ分かるぐらいにティーカップ。これもね、ほら中見て。入ってないでしょ何にも。それがね、こう傾けると──ね。机びしゃびしゃになった。手品みたいでしょう。報告だとほとんど塩水だって書いてあったよ。別に注ごうとしなけりゃ危なくないから、俺が預かってきたの。綺麗だったから、親父の思い出の品だとか適当言って。これ水瀬には秘密ね、あいつ相当渋ったから──ん? 別にね、そんなに気にならないなあ。そりゃすすり泣くとかこれが血だったりしたら結構嫌だけど、塩水だしね。置物にしとけばいいだけだもの。
とりあえずね、説明できそうなことはこのくらいです。どうだろう、君さえ問題ないなら──あ、そう。そりゃよかった。多分追って市役所から連絡行くから、それ待ちでいてくれれば大丈夫だと思うよ。儲かるかどうかっていったら全然そんなことはないけど、面白いとは思うよ。幽霊屋敷を探検して物持ち出してお金がもらえるってさ、なかなか意味分からないでしょ。盗人に追い銭とかそんな具合だよね、屋敷側からしたらさ。
ちなみになんだけど、気になるようだったらお祓いとか手配できるから言ってね。タダってわけにはいかないけど、割引ぐらいは頼めると思うから。お得意様ぐらいにはそろそろなってると思うんだよ。結構高頻度でお世話になってるからさ、バイトの人たちも、担当の人たちもさ。
業務内容:幽霊屋敷探索(軽作業) 目々 @meme2mason
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